平和な日常~冬~4

「うーん、確かに心を覗かれるのはちょっと……。」

「魔法は時に人や自分を傷つける凶器にもなりかねん。 身体の傷は治せても心の傷は容易には治せんのじゃ。 君達も気を付けんと失ってからでは遅いからのう。 それと横島君はもう少し自重するようにの。」

昨日魔法を知った面々でも特に安易というか軽かったのは美砂達とハルナであるが、近右衛門は在り来たりな言葉ではあるものの分かりやすい言葉で魔法の危険性を語っていた。

まあ魔法で女心と言い出した美砂も別に心を覗くというつもりではなく、女心を理解出来るようにならないのかと単純に考えたに過ぎない。

しかし近右衛門が最後におまけ程度のように横島に自重をするようにと告げると、横島とタマモ以外の全員が思わず笑ってしまう。

周囲に一線を置くエヴァでさえ僅かだが笑みを浮かべたことからも分かるが、誰がどう考えても横島にはもう少し自重が必要だった。


「俺は帰りのこと説明しただけなんっすけど。」

そして朝っぱらから近右衛門に自重を促された上にみんなに笑われた横島は少し不満げに言い訳をするが、横島としては正直ヤバイ話はしたという認識は全くない。

問題は時間旅行が割りと簡単に可能だと誤解するような言い方で物のついでで教えてしまった件なのだが、実は横島自身も時間旅行がそこまで簡単に出来ると言ったつもりはないのだ。

現実問題として現状では横島自身も異空間アジトの出入りは土偶羅による転送に頼っていて、瞬間移動ならともかく時間や次元を越えるのは正直ほとんど経験がない。

時間移動に関しても横島自身が時間を越えた経験はなく文珠や令子から受け継いだ能力で理論的には可能だが、実際には本来の能力者であった令子ですら経験不足なのでどこまで出来るかは横島にも未知数な部分がある。

もし仮に時間旅行に行くなら横島は当然土偶羅に送り迎えをさせるつもりだろうが、正直なところ普通の人間ならともかく横島の時間移動は下手をするとその時代の神族を刺激しかねないので土偶羅が絶対に反対するのは目に見えているのだが。

ただそんな説明を一切しないで中途半端に話した横島が悪いのは確かだろう。


(もしかすると、私たちは……)

一方言い方はソフトだが割りと本気で困った表情をする近右衛門に、夕映は自分達に魔法を明かした真意の一つに気付き始めていた。

木乃香やあやか達に魔法を教えるのは規定路線だったと思うが、実は夕映は正直自分達や美砂達に魔法を教えた真意を今一つ納得してない。

一晩たってある程度頭の整理が出来て落ち着いたこともあり、夕映は横島の特殊な立場と近右衛門達の特別な対応に気付いてしまった。

一言で言えば規格外とも非常識と言えるが、近右衛門はある程度でも横島を大人しくさせたいのではと夕映は思う。

横島が魔法という分野でどれだけ規格外なのかは今の夕映には分からないが、現在居るハニワの世界こと異空間アジトや先程話した時間移動は正直個人で持つべき力を逸脱しすぎているのではと思うのだ。

よく出る杭は打たれると言うように魔法という秘匿されてる力の閉鎖的な世界で横島が個人で突出して目立つと、近右衛門にとっても横島本人にとってもいいことがあまりないのは考えなくても分かる。

まして横島は異世界出身という問題になりそうな経歴な訳であり、あまり目立たせたくないのだと考えると自分達に何を求めてるかは簡単だった。

まあ正直なところ夕映には近右衛門達が自分達を越える力か技術がある横島の扱いに困ってるようにしか見えなかった。

恐らく横島と近右衛門達は上手く協力はしてるのだろうが、元々組織人には向かない横島の自由気ままな性格に手を焼いてるのかもしれないと考えると一応の筋は通る。

横島本人に悪気はないが、横島は何かと騒動の星の元に生まれたと思えるほど目立ってしまうのだから。


(確かに横島さんを規則や規律で縛っても無駄ですからね。)

この時夕映は何となく北風と太陽の童話を思いだし、自分達は横島を照らす太陽の陽射しにでもなれと求められてる気がした。

横島と付き合って結構もう二ヶ月ほどで一年になるが、横島という男が規律や規律で大人しくなることは絶対にないと夕映はよく理解している。

そもそも本人は凡人だと語る自称凡人だが、横島の価値観や常識はどっかずれてるのだから。

太陽の陽射しのように暖かく横島を縛れと無理難題を押し付けられた気がしていた。
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