平和な日常~冬~4

「私は何故ここにいるのかな。」

「私やあやかと同じ部屋だからだと思うわ。」

一方今日秘密を明かされたメンバーで一番混乱していたのは夏美である。

魔法に関わる訳でも横島と特に親しい訳でもないのに聞いてはいけないような秘密を聞かされた上に、ハニワの国まで連れて来られた夏美はどうしていいか分からないようだった。


「そんな理由で聞いて良かったのかなぁ。」

「そんなに気にしなくてもいいと思うわ。 多分マスターは深く考えてないから。」

夏美は千鶴と同じ部屋になっているが、彼女も夕映と同じく珍しいテレビを見てはいるが外国語を理解出来ないので内容は分からず眺めてるだけといったところか。

対する千鶴はルームサービスで紅茶を頼み、そんな夏美を優しく見守っていた。



「ほらみてあやかちゃん、星がとっても綺麗よ。」

そして雪広姉妹の部屋では姉のさやかが楽しげな表情で窓から見える星空に感激していた。


「お姉さまは驚かないのですね。」

「私も驚いてるわよ。 でもね、あの人と付き合っていくならこの程度で驚いていたら身が持たないと思うの。 それはあやかちゃんの方がよく分かってるはずでしょ?」

「それはそうですが……」

まるで世間知らずのお嬢様のように星空に感激する姉があやかは少し不思議そうであったが、さやかはすでに一種の覚悟のようなものを決めてる様子である。


「それに私が気になるのは彼よりもお父様達なの。 麻帆良学園も魔法協会も上手く行ってるわ。 学園長先生の後継者問題や東西の問題なんかはあるけど、それは悲観するほどのものではないはず。 この上横島さんのような味方まで付けたにも関わらず、何を恐れてるのかしら?」

さやかは現状で人知を越える横島の全てを知ろうとも思ってなければ、その秘密を暴こうとも思ってない。

頼りになる友人が出来たことを素直に喜んでいるが、同時に彼女が気になるのは横島よりも身近な人達のことだった。


「お父様達が恐れてる?」

「焦ってるというべきかしら。 まるで明日にでも戦争が始まるみたいに。」

「そう言えば、横島さんも時々辛そうというか考え込む時がありますわ。 まさか……。」

「私の考え過ぎだといいけど。」

現状を冷静に考えると麻帆良の未来は明るいと言えるが、まるで何かを恐れ焦るような大人達がさやかは気になっている。

よく親というものは子供が心配だと言うがそれにしても少し心配のし過ぎだと感じるほど、ここ最近の大人達は何かを恐れてるようだった。

もしかすると今日という日は何かの始まりなのかもしれないと思うさやかは、自分の考えが気のせいであって欲しいと願いながら星空を見上げた。



「やあ。」

同じ頃高畑は一人部屋に居ても落ち着かなかったのでホテルの最上階のバーに来てみたが、そこではすでにエヴァが一人で酒を飲んでいる。

店内は当然客も従業員もハニワ兵ばかりだったが、エヴァは今日来たメンバーで唯一ハニワ兵を事前に知っていただけに驚きはないようだ。

高畑はそんなエヴァから一席明けて座ると酒を頼み一息付くとものの、エヴァは当然無言なので少し重苦しい沈黙が二人を支配していた。


「タカミチ、分かってるとは思うが奴に助けて貰うなど間違っても考えるなよ。」

その後もただ無言で酒を飲む時間が過ぎる二人であるが、先に口を開いたのは意外にもエヴァである。

言葉の言い回しをソフトにしてはいるものの、高畑はその内容に表情が固まるのを隠せない。


「力を得るのにどれだけの代償が必要かは貴様も理解してるはずだ。 奴と奴にここを託した連中を汚すことだけはするなよ。」

互いに目を合わせるどころか顔を向けることもないエヴァと高畑だが、その言葉は何処までも深く重かった。

高畑自身決して口には出さないが横島ならば魔法世界を救えるのではとの考えが、異空間アジトに来てから微かにあったのは事実だ。

そしてエヴァはそれを誰よりも真っ先に見抜き、高畑が本気にならないうちにと釘を刺していた。
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