街はネオンや街灯や建物の灯りが綺麗なごくごく普通の日本の地方都市のようだった。

尤も日本の街と比べると道路を走る車は圧倒的に少なく静かな印象を受けるが。

ただ昔ながらのラーメンやおでんの屋台が出ていたりして、そこではハニワ兵達が楽しげにしていることから寂しいという感じはしない。


「本当にハニワの街だし。」

郊外から街中に入ったバスはゆっくりとしたスピードで進むと一行はまるで旅行にでも来たような気分になる。

しかも冗談ではなく本当にハニワの街に来てしまった一行は、自分達は何処に向かっているのだろうとの疑問が浮かぶが何故か誰も口にすることはなかった。


「……横島君、あれは？」

「多分映画館じゃないっすかね。」

そんな中で最初に引きつったような表情に変わったのは詠春であった。

彼もまた今日初めて来た一人なので興味深げに街を見ていたが、そんな時偶然見つけたのは映画館で上映されている【サムライマスター】という魔法世界で数年前に製作された映画の看板である。

題名の通り主役は詠春の若い頃であり、変身魔法で若い頃の詠春の姿になった魔法世界の有名俳優が演じた超大作として魔法世界では有名な映画だった。


「うむ、婿殿の映画が上映されとるのか。」

詠春自身はなんでこんなとこで自分の映画がと驚いているのだが、近右衛門達は前回来た時に横島達が魔法世界でいろいろ集めていた物を見たので驚きはないようだ。


「えっ、お父様の映画？」

「うむ、婿殿は魔法世界では有名じゃからな。 むこうでは映画やドラマによくなっとるようじゃ。 まあノンフィクションではないがの。」

「木乃香のお父さんが有名人だったとは」

しかし木乃香を含めて少女達にはまだ詠春の過去の辺りは全く話してないので、少女達は身近に有名人が居たことに驚きどんな映画なんだろうと興味を示す。

ちなみに異空間アジトで魔法世界の映画を上映してることを横島は当然知らなかったので全くの偶然である。


「こっちじゃ最近一番の人気だってさ。 明日にでも見てみるか？」

「賛成ー！！」

横島は運転手のハニワ兵に話を聞いてみるが、いわく最近一番の人気映画であり話題作だとのこと。

詠春はまさかこんなとこで娘や娘の友人達に昔の自分を題材とした映画を見られることになるとは思ってもいなかったようで、恥ずかしさから戸惑った表情をしていたが。



さて詠春の話題で盛り上がる賑やかなバスが到着したのは地上十階建ての立派なホテルである。

ざっと見てホテルの部屋の明かりは七割ほどなのでそれなりに繁盛してるらしい。


「ぽ？ ……ぽー！？！？」

ホテルの入り口で止まったバスからタマモを筆頭に横島達が降りていくと、ホテルマンらしきハニワ兵は横島達を二度見した後に驚愕の表情を浮かべると後ろにコロコロと転がっていく。


「おーい、大丈夫か？」

まるでコントのように転がるハニワ兵を横島を始めとした一行は不思議そうに眺めるが、ハニワ兵はすぐに我に返ると立ち上がり大丈夫だと頷きながら中に案内し始める。

それと余談だが詠春はバスを降りる際に運転手のハニワ兵にサインを頼まれて更に困惑していた。


「なんか、中で慌ててますね。」

ホテルの中は正直日本のホテルと変わりなく特に珍しくはないが、やはりここでも客や従業員は全てハニワ兵である。

横島達がホテルのロビーに入ると従業員のハニワ兵達は慌てた様子で何やら相談したり走り回っており、すでにロビーで寛いでる横島以外の一行はそんなハニワ兵達を見ながらどうしていいか分からなかった。

というか人の居ない世界に何の前触れもなく人の団体が来て驚いてるようであるし、そもそも横島はここでは神様のような立場なので突然来れば慌てて当然なのだろう。