平和な日常~冬~4

「さっき人が居ないって言ってたのに街があるわ。」

「そうね。 ハニワの街みたいだけど。」

「……私達はハニワの国にでも来たのかしら?」

異空間アジトの転移場は強力な結界で覆われた異空間アジトの玄関口である。

基本的な出入り口は管理施設になっていて、そこでは防疫の類いの検査などを行ってから本格的に異空間アジト内に入ることになっていた。

これに関しては横島達が異空間アジトに来て頻繁に出入りするようになってから作った仕組みであり、元々異空間アジトは横島の生まれた世界を元にした世界だが人が居ない分だけ生態系なども微妙に違う。

特に異空間アジトにはない病原菌などは持ち込まないようにと気を配られている。

そんな転移場を出た一行が見たのは文明の光というか街の灯りであった。

付近には倉庫らしき建物が並びあまり活気がある場所ではないが少し先には活気がある街があるようだ。

実は前回近右衛門達が来た時は転移場から直接バベルの塔に瞬間移動したので、近右衛門達も外に出るのは初めてである。


「今夜はあそこで泊まりましょうか。 多分部屋は空いてますよ。」

転移場の入口にはバスが止まっていて横島を先頭に乗り込むのだが、運転席にはこれまた運転手姿のハニワ兵が座っていた。

しかもこのバスは一見すると何処にでもある普通のバスだが、よく見ると運転席にはハンドルやメーターの類いどころかボタンの一つもない。


「ポー!」

大好きなバスに乗り込みまたもやハニワ兵の運転手に挨拶をしているタマモも含めて全員が席に座るとドアが閉まり出発することになるのだが、次の瞬間バスがふわりと浮きあがり微かな浮遊感に全員驚きの表情を見せる。


「あの、横島さん。 今バスが浮き上がってるような……。」

「そりゃこのバス飛べるからな。 そもそもここって人が居ないからインフラも本当に最低限しかないんだよ。 道路作るより飛べる乗り物作った方が楽だしな。」

地上から三十センチほどの高さまで浮き上がったバスは普通に発車するが、何故か道路を走るような車の走行音も聞こえていた。

何故バスが浮くのかと驚き表情の一同に対し横島は異空間アジト内の問題として、インフラがほとんど整備されてないことを告げて道路を作るより飛べる乗り物を作ったと告げる。

最早魔法ってなんでもありなんだなと感じる少女達であるが、実はこの考え方に関しては奇しくも魔法世界と同じだったりする。

まあ気軽に飛べる乗り物がある以上、わざわざ維持が大変な道路をあちこちに造る必要がないだけであるが。


「でも何故わさわざバスを?」

「ぶっちゃけ形はなんでもいいんだよ。 浮力と推進力は魔法の一種だしな。 もちろん翼も必要ないし。」

空飛ぶバスの乗り心地は快適であったが、一部の少女達は何故バスを飛ばすのか疑問に感じたらしい。

現代科学の常識から考えるとそれは魔法だとしても効率が悪いようにも思えるようなのだが、横島いわく形は何でもいいらしくバスはハニワ兵達にも人気の乗り物だとのこと。


「空飛ぶ車ってSFの映画みたいですね。」

「そういえば近未来のSFだとだいたい車が飛ぶわよね。」

自分達は魔法を明かされたはずなのに幽霊やら異世界やらハニワやら空飛ぶ車やら出てきたことで、少女達は魔法からどんどん離れてる気がしてならなかった。

というかハニワが運転?する空飛ぶバスは魔法じゃないだろうと思うらしい。


「あの、横島君は特別だからね。 こんなの個人で持ってる人は他に居ないからね。」

結局何やかんやと賑やかに話をしていく一同であるが、刀子や高畑は誤解が深まらないうちにと横島は特別だと何度か少女達に言い聞かせることになる。


「運転は難しいのか? バスは欲しくないが別のタイプの物ならば一台別荘に欲しいな。」

「運転は簡単だよ。 基本的に全自動だからな。 欲しいなら一台やるぞ。 ただあそこの別荘ならベースを車じゃなく船の方が良くないか?」

「うむ、船がいいな。」

一方異空間アジトに来て以降大人しかったエヴァは、ちゃっかり横島に空飛ぶ乗り物をねだっていて横島も気軽にやると言ってしまうと近右衛門達や少女達を驚かせていた。

まるでおもちゃの貸し借りのように軽い二人が、特に少女達は不思議なようである。
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