平和な日常~冬~4

そしてさよの方はと言えば一世一代の告白を、まさか信じてもらえないとは思いもしなかったようで戸惑った様子である。

嫌われるかもしれないという恐怖も当然あるし、話すならば今しかないとの思いもあった。

結局困ったように横島を見つめて助けを求めるが、横島は後で話そうと言うぱかりなのだ。


さて荷物を持ち雪広邸の玄関で靴を履いた一行は一応人目がつかない庭の方に移動していく。

時間的に庭のライトアップも最低限まで減らされており、薄暗い庭を歩いていくと闇夜の散歩のようだと少女達は楽しげである。


「この辺りでいいか。 んじゃ行きますよ。」

横島が止まったのは庭の隅の方だった。

こんなところに来て何を見せてくれるのかと期待に胸を膨らませる少女達と相変わらずの横島に何とも言えない様子の大人達に、横島は突然止まってただ行くと短く告げると次の瞬間には土偶羅による強制転移で景色が一変していた。

そこは前回近右衛門達が来た時にも最初に来た異空間アジト内の玄関口といえる転移場である。


「横島君の転移魔法か? この人数を瞬時に!?」

それはまさしくまばたきした瞬間の出来事でありタマモとさよ以外の少女達は驚きというか現状を理解出来ずに呆然としているが、驚いていたのは今回初参加の高畑や詠春やさやかや刀子やエヴァも同じだった。


「いや、違うな。 あの男の魔法ではない。 別の第三者の魔法だ。」

特に事前に何一つ情報を知らされてない高畑は呪文の詠唱もなく大人数を転移させたことに驚くが、 そんな高畑の勘違いをエヴァはすぐさま否定していた。

そもそも魔法にしろ何かしらの術にしろ何かの現象を起こすには相応の力が必要になる。

魔力・気・霊力など細分化するといろいろあるが根源的には同じ力であり、エヴァは先程から横島を注意深く観察していたため横島の仕業ではないと確信していた。


「うわ~、なにこれ?」

「庭も家も無くなっちゃった。」

そして呆然としていた少女達がようやくこれが現実だと気付き動き始めるが、少女達からすると今何が起きたのか全く理解出来ない。

イメージ的に魔法は呪文を唱える物だとの印象が強い為に、転移魔法というよりは雪広邸や庭が消えたように見えている。


「さあいくぞ。 夜も遅いしどっか泊まるとこに行かんと。」

「あの、横島さん。 ここは一体……」

流石に二度目の近右衛門達は落ち着いてはいるが、後のメンバーは一体何処なんだと戸惑っているし少女達もここが何処でこれから何を見せてくれるのかと期待していた。

そんな中で夕映は当然ながら今の現象とここが何処なのかと尋ねている。


「ここは異空間にある別の世界の別の星だよ。 次元そのものが違うって言った方が分かりやすいか?」

「いっ……異世界ですか? 何か実感がないのですが。」

「異世界!? じゃあ、ここには異世界人がたくさん居るのね! ドキドキハラハラの大冒険が始ま……」

「悪いが異世界人は居ないしドキドキハラハラの冒険もないぞ。 ここ俺の私有世界だし。」

大人達が見守る中で少女達は驚きや半信半疑な者や考えられないような現実にどんどんテンションが高まる者も居るが、ハルナは何故か異世界と聞き大冒険が始まると声高に叫ぶも言い切る前に横島に否定されている。


「……はい?」

「ここには知的生命体なんて居ないんだよ。 だから冒険はないな。」

見渡す限りの星空と空港のような施設の明かりに少女達は誰もがここは横島の生まれた世界だと誤解していた。

それが冒険どころか知的生命体が居ないと語る横島の言葉に、あまりの現実にテンションが上がっていたハルナでさえ呆気に取られている。


「期待させちまったみたいで悪かったな。 俺の生まれた世界はもう存在しないんだよ。」

つい今さっきまで半信半疑でも期待に胸を脹らませていた少女達の理解出来ないと言わんばかりの表情に、横島は少ししくじったかと感じつつ少女達の期待には答えられないことを告げるしかなかった。

異空間にある別の世界だと言ったことで少女達は横島が自分の世界に連れて来てくれたと勘違いしてしまったのだ。

正直横島は元の世界をどう少女達に説明するかずっと悩んでいたし今も悩んでいる。

帰れない事情があると誤魔化そうかとも思ったが、異空間アジトを見せる以上は少女達が真相の一端にたどり着くのはさほど遠くない未来だと理解していた。

無論全ての過去を話す気は今も全くないが近右衛門達に教えたことくらいは話さないと、誤魔化すものも誤魔化せなくなると考えたようである。
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