平和な日常~春~

さて場所は横島の店に戻って朝食目当ての客も居なくなり暇な時間になると、店内には近所の住人が少しとエヴァだけだった

ここで少しエヴァの日常を説明するが、彼女はナギによりかけられた登校地獄の呪いにより体調が悪くても学校を休めない体である

しかしこの登校地獄はとにかくいい加減な呪いだった

基本的に一度学校に行けば後は自由に行動が出来るため、エヴァが授業に出る回数は一週間に一度あればいい方である

加えてこの登校地獄の特徴は麻帆良の結界内から出れないことだった

登校地獄と呼んではいるが、この呪いの特徴は麻帆良の地にエヴァを括り付けたことに他ならない

いわゆる学業とは無関係な術式までかなり組み込まれているが、これはもちろんナギ・スプリングフィールドの仕業である

ナギにはナギなりの理由があっての行動だろうが、その行動が今だに近右衛門やエヴァの重荷になっているのは言うまでもない


さてそんなエヴァの日常だが登校と同時に帰宅することが最も多い

何より登校地獄は登校しなければならない呪いであって、登校さえすれば後は一切問題なかったのだ

クラスメートや一般教師には特殊な持病持ちだと説明されており、基本的にエヴァの行動に口を出す者はいない

そんな彼女が何故横島の店によく来るかと言えば、ただ単純に横島が何も言わないからである

いくら麻帆良が特殊な結界に包まれた自由な街とはいえ、平日の朝から見た目少女のエヴァが長居出来る店は少ない

ファミレスやファーストフードでは店員や客に不審そうに見られたり心配されることもたまにあるのだ

普段は人払いの結界さえ使えないだけに、エヴァとしては行ける場所が限られていた



「う~ん、思ってたより難しいな」

「そう言う割にはまともな打ち方だな。 実に貴様らしい」

麻帆良祭に出すメニューに煮詰まった横島は、何を思ったのか暇そうなエヴァを誘って囲碁を打っていた


「俺らしいってどう言う意味だ?」

「見た目ふざけてる割には抜け目がないということだ」

初めてだから手加減しろと言いつつ始めた囲碁だったが、割と手堅い展開で進んでいる

エヴァはそんな打ち方が横島らしいと言うが、横島はあまり自覚がないらしい


「見た目ふざけてるって、遠回しにブサイクってことか? 改めて言わんでも毎朝鏡見てるから知ってるよ」

エヴァの言葉の意味を理解しつつ横島はふざけた口調で話の筋をはぐらかしていく

端から見れば横島がボケをかましてるように見えるが、エヴァは話の本筋をずらし答えをはぐらかしてることなど気付いている


「ふざけた男だ」

「昔っからお笑いのセンスだけは褒められて来たからな」

客がほとんど居ない店内では、横島とエヴァの意味があるようで意味がない会話が続いていく

店内に静かに流れるミュージックに乗せて碁石を打つ音と二人の会話だけが響いていた




75/86ページ
スキ