平和な日常~冬~4

「マジッ!?」

「嘘でしょ!?」

「これこれ、静かにせんか。」

その後余計なちょっかいを出した横島は邪魔になったことで再び大人しくするも、幾つか魔法を使って見せる近右衛門に少女達は次第に驚き驚愕していく。

特に驚き手品ではないと全員が確実に認識したのは近右衛門が自身の身体を宙に浮かせたことである。

美砂達やハルナは真っ先にタネを見破ろうと立ち上がると近右衛門の背中や頭の上を見たり触ったりするが、当然ながらタネも仕掛けも存在しない。

超能力や魔法は元より宇宙人や妖怪かと興奮ぎみに騒ぎ他人の頬をつねったかと思えばリアル妖怪ジジイギターと叫んだりする美砂達とハルナと対照的に、夕映達と夏美は驚きのあまり無言になっていた。


「そう言えば以前豪徳寺先輩が光るビームを出してましたね。 男魂とか叫んで。 あれ以降古菲さんが明らかに隠し事をしてる様子でしたが……」

そんな中で夕映は何故か夏祭りで見た豪徳寺の男魂のことを思い出してしまう。

麻帆良ではあの手の派手な見世物や仕掛けが多いので夕映自身もあまり気にしてなかったが、今更ながらによくよく考てみると豪徳寺のような格闘技馬鹿がそんな見え透いた仕掛けで売名行為をしていたのには違和感もある。

実際あの時古菲は豪徳寺にアレを習うと言い出し、その後はその話になると秘密があるから聞くなと言わんばかりの態度だったのだ。

今までは夕映もクラスメートもたいした秘密ではないだろうと笑っていただけであるが、こうして目の前で科学では出来ないことを見せつけられると途端に怪しく思える。

そして夕映は事の真偽を確かめるように近右衛門ではなく周りの大人や横島と先程近右衛門が秘密をすでに知っていると語った木乃香達に視線を向けるが、横島が宙に浮く近右衛門に興奮した様子のタマモと遊んでいる以外は基本的に真剣な表情だった。

尤も少し複雑そうな高畑や何故か呆れた様子のエヴァも居るので全員が同じではないが。

ただ美砂達と周囲の温度差はかなりあって、美砂達は気付いてないが決して冗談やドッキリでもなければ楽しい話ではないと言えるような雰囲気は感じる。


「ねえゆえ、これって……」

「世の中には不思議なことがいっぱいあるとは、さよさんの口癖でしたね。 確かにこの光景はその言葉がしっくりと来るですよ。」

正直なところこの期に及んでもまだ横島や近右衛門の悪ふざけではとの考えが夕映の頭を離れないが、美砂達が何度もタネを確認しても見つけれない様子を見ていたのどかや明日菜ですらこれが普通のことではないと気付いていた。

結果として彼女達は身近で一番普通じゃない横島を自然と見てしまうが宙に浮く近右衛門を不思議そうに見ているさよも当然ながら視界に入り、さよの口癖の意味をようやく理解出来た気がする。

木乃香も最初に同じくさよの口癖を思いだしていたが、何故か妙に説得力があるというか頭に残っている一言だったのだ。

現状では美砂達とハルナは純粋に興奮しているが、夕映や明日菜達は驚きや好奇心に興奮もあるがそれ以上に不安な部分が強い。

科学では説明出来ない目の前の現実は確かに興奮するも、それ以上に今までの日常が変わりそうで怖かった。

本来の歴史ではなし崩し的に魔法に関わり特に夕映とのどかは魔法に大きな魅力を感じるはずだったが、今の二人はそれほどではない。

無論好奇心が刺激されていることは確かだし夢が膨らむことも事実であるのだが、本音を言えば今の現実を変えてまで新しい夢が見たいほど二人は幸せにも刺激にも飢えてないのである。


「そう深く悩まんでもいいぞ。 今まで知らなかったことを少し知る程度だからな。 幸か不幸か今までの日常が変わる訳でもないし。」

「その台詞は貴様が言うと逆に説得力はないな。」

結果として楽観的な者と不安げなもので反応が真っ二つに分かれた少女達に横島はさほど悩む必要はないと軽い調子で語るも、ただでさえ元から非常識が服を着てるような横島に更に最低限の常識という枷を外すと最早説得力は皆無でありエヴァは黙って居られなくなかったのか至極まともな突っ込みをしてしまう。


「なんでだ? 俺なんかしたか?」

「貴様本当に自覚がないんだな。」

しかし横島とすれば少なくとも魔法というか一般にはない力で目立った自覚は全くなく素の表情で首を傾げると、夕映達は横島は一体どこまで普通じゃないんだと不思議な現象そのものよりは不思議な現象と横島の関わりに興味がいっていた。



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