平和な日常~冬~4

「やっぱりあの子は優しすぎるわ。 よくあれで滅びゆく世界で生き残れたと思うもの。」

「人知を超えるモノを持ちながら一人の老人の夢を潰すのを躊躇するんじゃからのう。 確かに今のところあまり長生き出来るタイプには見えんな。」

その後横島が部屋を出ると清十郎と千鶴子は軽くため息をつき横島のことを話していた。

二人は以前から薄々感じていたが横島は普通の大人として見ても甘過ぎると言えるほど優しい。

それは一見するといいように見えるが同時に横島の欠点なのだと改めて実感する。

人には辛いと分かっていても決断が必要な時があるし、必ずしも優しさが人の為になる訳ではない。


「眠れる獅子なのか。 はたまた本当はだだの普通の人なのか。 判断に迷うわい。」

正直なところ横島が普通でないことは元より日頃の気遣いや能力の高さは二人も十分理解しているが、評価が高い故に見る目も厳しくなってしまう。

特に異空間アジトや土偶羅の能力と比較するとどうしても横島の甘さが二人は気になるのだ。

まあ横島は自身の過去についてあまり口を開かないので推測でしかないが、イマイチはっきりしない横島をどう評価するべきか迷っていた。

横島を仲間として向かえ更にこの先の未来を託すならばこそ、より正確に横島を理解したいと二人は思う。

近右衛門は無条件で受け入れたが、今後の厳しい未来を思うと必要ならば誰かが横島を導かねばならないのだ。


「もう少し様子を見ましょう。 それと芦社長にも話をしてみないと。」

「そうじゃな。 まだ焦る時ではないか。」

結局横島に関しては唯一過去を知る芦優太郎こと土偶羅に相談するとして今しばらく様子を見ることにする二人だが、やはり期待が大きいだけ見る目は厳しくなるし何処まで期待していいのか迷ってしまうようだった。

現実問題として横島の協力が無ければ麻帆良の未来は厳しいどころの騒ぎではなく取れる選択肢も今より遥かに厳しくなるが、同時に二人は自分達の世界の問題を横島に抱えさせていいのかという疑問も心に抱くことになる。

冷静に考えると横島には今以上に協力する義理はないし、仮に情報提供以上はしたくないと言われるとそれまでなのだ。

そもそも横島が魔法協会に協力する理由は木乃香達への好意以外の何物でも無いが、正直なところいくら親しいとはいえ好意だけで抱えるには厄介過ぎる問題であり横島の気が変わって手を引いても仕方ないとも言える。

ただ清十郎達からするといつまでも気まぐれでは困るのが本音であった。

その辺りに関しては受け入れた以上は信じると覚悟を決めた近右衛門と違い二人はより現実的に横島を見ていた。

まあ欲を言えば木乃香達の誰かと明確なカタチを作って欲しいとの考えもない訳ではないが、現状の横島達の中で誰かが横島と一線を超えるのはそれはそれで危険でしかない。

微妙なバランスの上に成り立つ関係なだけに、そのバランスが下手に崩れたら後が怖かった。
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