平和な日常~冬~4

「あれ、マスターは?」

「今さっき雪広のおじいちゃんに呼ばれて行ったんよ。 なんの話やろ?」

それからも新年会は和やかに続くが二時間ほど過ぎた頃になると横島は清十郎に呼ばれて一人別室に行っていた。

招待客もぽつぽつと帰り始めている者も居るが、それでもまだ新年会が続く中でお手伝いさんから密かに別室に一人だけで来て欲しいと伝えられ行った横島が木乃香達は気になるようである。




「楽しんでるところ悪いんじゃが、今夜の前に少し話しておきたくてのう。」

そして別室にというか清十郎の部屋に案内された横島を待っていたのは、清十郎と那波千鶴子の二人であった。

今のところ少女達への情報開示は順調だが、それを抜きにしても清十郎達と横島は話さねばならない案件がいくつかある。

特に近右衛門が仕事を理由に新年会に来るのは夕方以降になるので、本人が来る前に近右衛門の負担軽減など話し合いが必要なのだ。


「構いませんよ。」

「わしらはいい加減近右衛門の負担を軽減してやりたい。 それに組織としてもいつまでも近右衛門頼りでは良くないじゃろ。」

ついさっきまではお酒も入りほろ酔い気分で木乃香達と騒いでいた横島であるが、清十郎と千鶴子の真剣な様子に横島も表情が真剣にというか落ち着いた様子に変化する。

主な話は近右衛門の負担軽減だが、それは魔法協会の運営のみならずこれから先の難題も関わるのでそう簡単にはいかない。

一番の問題として軽減した負担は誰かが負担せねばならないが、機密の多い近右衛門の職務を代行出来る人材は多くはないことだろう。

まあ関東魔法協会は近代的な組織なのである程度は組織内で負担を分担させれるが、それでも部下に任せられない案件がまた多いし加えて仕事を分担するならば組織内にも最低限目を光らせる必要があった。

そもそも魔法協会という組織はどうしても秘匿組織としての性質から、内部の風通しが悪くなり腐敗や問題を抱えやすい性質があるのだ。

世のため人のためだからと一切の不正もなく生きられるほど人間は完璧ではないし、負担を分担するならば少なからず権限も分担せねばならないが権力や権限は人を惑わし間違いを犯させる誘惑にもなるのだから。


「学園長先生を説得出来ますか? ぶっちゃけ俺には執念のようにも見えますけど。」

横島も清十郎と千鶴子も総論では負担軽減で意見は同じだが、細かく言えば清十郎と千鶴子は無理にでも止めたいが横島は周りが無理に止めるのには慎重だった。

健康管理なんかは現状でも密かに土偶羅にさせているし、無理をして倒れたり寿命を縮めるようなことは流石にさせるつもりはないとの前提の上で好きにやらせたいと考えている。


「負担軽減は必要なんでしょうけど、俺としてはここまで自分でやり抜いて来たんですから気が済むまでやらせてやりたい気もするんですけどね。 健康と寿命はこっちでなんとかして。」

「仮に今私たちが止めなくとも近いうちに木乃香ちゃん達が止めると思うわ。 横島君も分かっているでしょう?」

結局その後も話し合いは続くが、いつの間にか横島が説得されるような形になっていた。

正直なところ近右衛門の好きにさせてやりたいのは二人も同じだが、横島と二人の違いは年齢的なものからくる価値観の違いだろう。

自身に時間の制限がない横島と残りの人生が限られてる清十郎と千鶴子では根本的な物の見方が違っている。

近右衛門はすでに次なる世代に託すべき時だというのが二人の考えであり、それは横島による近右衛門の延命があっても変わらない。

この点で言えば近右衛門自身のためにも組織の未来のためにも二人の意見が正しいのかもしれない。

最終的に今夜から数日は異空間アジトで休暇にするのでその間の様子を見て対応を決めることにするが、すぐにでも出来て問題のない範囲での負担軽減は早々に進めることは一致していた。
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