「お疲れさん。 新幹線も混んでて大変だったろ。」

その後お昼頃までには次々と少女達が麻帆良に戻って来ていて、木乃香もギリギリ午前中のうちに麻帆良に戻り横島宅を訪れていた。

横島やタマモや友人達の以前と変わらぬ様子に、木乃香は麻帆良に帰って来たことを実感すると同時に少し安堵の表情を見せる。

さほど不安に感じていたつもりはないが驚きの連続のような事実を聞いたことで、気持ち的に落ち着かない部分はない訳ではなかった。

横島が入れたお茶を飲み一息つくと木乃香は素直にほっとしている。


「何かあったのですか？」

そして木乃香の表情の僅かな変化に真っ先に声をかけたのは夕映であった。

木乃香の様子がいつもと僅かに違うと感じた夕映は、体調が良くないのかあるいは年末年始に何かあったのかなと少し気になったようである。


「マスターのとこに来ると麻帆良に戻って来たって実感するのよね。 私も正直ホッとしたわよ。」

まあさほど深刻には見えないので夕映も気軽に聞いただけであるが、そんな夕映の言葉に木乃香より先に答えたのは美砂だった。


「年末に小学校の時の友達と会ったんだけど、その友達と話してるといろいろ考えさせられたわ。 普通の公立の中学生と私達って違うもの。」

珍しく少ししんみりとした美砂は昨年末に友達と会った話を語り始めるが、その話には夕映のような公立の小学校から来た者は共感するようで静かに聞き入ってしまう。

決して公立が悪いわけではないが麻帆良に馴染んだ今となっては息苦しさを感じるのが本音だった。

正直なところ横島宅に来てホッとしたのは木乃香だけではなく美砂や夕映も同じなのだ。


「そうやな。 ウチも少し考えさせられることあったんよ。 詳しくは今度話すけど、正直ウチもホッとしたわ。」

日頃あまり落ち着いて本音を語るタイプではない美砂の告白に一同は静かになり、木乃香は美砂と自分の不安は根本的には同じなのだと実感している。

木乃香の場合は魔法というモノへの希望や不安だが、その根本的な原因は今の幸せを失いたくないのだと木乃香は美砂の話から気付いていた。

そしてそれはタマモを膝の上に乗せて美砂や木乃香の話を大人しく聞いてるというか不自然なほど静かな横島が深くか関わっているのは、横島本人とタマモ以外のこの場の誰もが理解している。

尤も横島本人は自分の過去をどう説明するかで先程からずっと頭を悩ませてるので大人しいのだが。



そんな横島については夕映や明日菜達なんかは今日の横島は何処か静だなと先程から不自然そうに眺めているが、木乃香は年末年始の間に母から何度か言われたことをふと思い出していた。

母である穂乃香は木乃香に対して、みんなで横島ときちんと向き合い決して手放してはダメだと言っていたのだ。

木乃香はその言葉の意味を未だに理解出来ない。

横島の過去は何か訳ありでその訳に魔法が絡むのはなんとなく理解しているも、そこまで母が念を押す意味が分からないのである。


「うーん、お昼は軽くサンドイッチでも作るか。」

結局いつの間にか少女達の視線は静かな横島に集まっていたが、横島はそれを感じたのかそれともただお腹が空いたのかは不明だが突然昼食のメニューを決めるとキッチンに行ってしまった。

少女達は互いに顔を見合わせて横島が大人しい訳を考え始めるが、答えは出ぬまま話は脱線していくことになる。