平和な日常~冬~4

賑やかな昼食が終わるとタマモはビッケとクッキと一緒にお昼寝の時間となる。

まるで姉妹のようにタマモを真ん中に挟んでビッケとクッキが丸くなって眠ると横島は食事の後片付けを終えて一息つく。



「桜子のやつ、本当にちゃっかりしてるんだから。」

一方実家に戻っていた美砂は横島宅に行った桜子からおせちとお雑煮をお腹一杯食べたと可愛らしい絵文字付きのメールが来ると、少しムッとした表情で返信していた。

年末年始も両親が忙しい桜子だけに仕方ないのは理解するも羨ましいものは羨ましい。

美砂自身はこの日も家族と過ごしていたが、家族仲は特別良くも無ければ悪くもない。

年頃なせいか少し父親が鬱陶しいと思わなくもないが一般家庭である柿崎家において麻帆良学園の学費は決して安くはなく両親に苦労をかけてるのは理解しており、父親ともそれなりにコミュニケーションを取っている。

正直なところ今更普通の公立に行けと言われるのは絶対嫌だと嫌だと言うのが本音だった。

昨年末には地元の友達と久しぶりに再会したが、みんな受験で大変だったり学校の教師や規則に不満を抱えていたりと愚痴も多かったのだ。


「羨ましいか。」

そんな友人達に美砂が一番聞かれたのは麻帆良カレーについてであった。

美砂の地元においても雪広グループ系列の店があって、麻帆良カレーや味付きポテトなんかが販売しているらしい。

今はもう無くなったが販売した当初は麻帆良祭の写真付きのポスターなんかも貼っていたので、友人達は当然美砂に気付きいろいろ噂をしていたようである。

というか一般の中学生からすると学祭で金儲けをするなど信じられないし、それが商品として売り出されるなどもっと信じられない。

麻帆良学園は一体どうなってるんだと友人達が騒いだ気持ちも十分理解出来た。


「恵まれてるのよね。 私って。」

友人達の中学生活と自身中学生活はまるで別の国かと突っ込まれるほど違いがあり、極論を言えば麻帆良学園は教師からして一般の公立よりはレベルが高いのだと再認識している。

ボランティアなどでよく居なくなっていた担任の高畑にしても勉強の教え方の上手いか下手かは別にして、基本的には自分達生徒のことを考えてくれていたが友人達は教師も所詮は仕事でしょと冷めた意見が大半だった。


「そんなに信じられないものなのかな。」

友人達とは小学校は同じだったので、以前は美砂もまた同じような価値観であり考えだったはずなのだ。

それがいつの間にか話が噛み合わなくなったことは少し寂しさを感じさせる結果である。

友人達の学校ではクラスメートみんなでパーティなんて当然やることも無ければ、凄いけどどっか変な喫茶店のマスターなんてもちろん身近に居ない。

美砂が近況として最近喫茶店に入り浸っていると言うと、よくお金が続くねと妬まれるほどだった。

何も注文しなくても遊びに行ってると教えても、それは変だよと逆に変な目で見られる始末なのだ。

結局エスカレーター式に高等部にいけるので受験の苦労もなく日々の生活も楽しいと語ると最早自慢話のようにしか聞こえないのかもしれないが、それは紛れもない事実なので複雑な心境になってしまう。


「お父さん肩でも揉んであげよっか。」

かつて一緒に学び遊んだ友人達との違いは美砂に自身の現実を改めて理解させることになっていた。

誰もが横島のように毎日楽しく仕事をしている訳ではない。

両親もきっと苦労を重ねて学園に行かせてくれてるのだと思うと、せめて正月くらいは一緒に居て親孝行の真似事でもしようかと考えた美砂は父の肩を揉んだりしながら両親との時間を過ごしていくことになる。
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