平和な日常~冬~4

「お兄さん久しぶり! 相変わらず綺麗な女の子連れてますね。」

さておみくじを結んだ横島達はそのまま屋台を覗いていくが横島はその一角で予期せぬ久々の再会をしていた。

横島に声をかけたのは大学生くらいの女性で、初詣に来た人達を相手に有料で写真撮影をしているらしい。


「確かあの時の……」

女性は横島に続けてタマモや明日菜とさよも興味深げに見つめて声をかけたのだが、実は彼女は麻帆良祭の準備期間中に横島と木乃香の若干恥ずかしい口を拭いてる写真を撮った女性カメラマンである。


「麻帆良祭であの話題になった写真撮ったのこの人なんだよ。」

「あの写真のおかげで、プロの写真家のアシスタントになれたの。 一度挨拶に行こうと思ってたんだけど、その人のアシスタントとしてあちこち飛び回って居たから。」

偶然の再会に嬉しそうな女性と相変わらず綺麗な女の子を連れているとの言葉に明日菜は少し冷たい視線を向けるも、横島は誤解だと言わんばかりに女性の素性を明日菜達に説明していた。

女性は大学部の生徒らしいがあの横島と木乃香の写真がきっかけで著名な写真家に弟子入り出来たらしく、夏休み以降は大学を休学して世界中を駆け回っていたらしい。


「あっ、あの恥ずかしい写真の!」

「アハハ、確かに今は恥ずかしいでしょうね。 でも何年かしたら懐かしくなるわよ。」

女性の正体を知り明日菜は思わず恥ずかしい写真だと口を滑らせてしまうが、女性はその言葉に笑いながら何年かしたら懐かしくなると語る。


「ねえ、写真撮っていかない? あの時のお礼にタダでいいわよ。」

実のところ写真家のアシスタントもあまり生活に余裕がある訳ではないらしく、元旦から初詣の客を相手に写真撮影をしてお金を稼いでいたようだが女性は今一度横島を撮ってみたいと思ったようで写真撮影を勧めていた。


「写真か? コンテストとかに出さないならいいけど。」

横島自身二度目は無いだろうと笑っていたが、また妙な注目を集めても困ることと明日菜に関してはあまり目立たない方がいいのでコンテストなどに出さないことを条件に写真を撮って貰うことにする。

正直なところせっかく振袖を着たタマモ達をきちんとした写真に残して置きたかったのだ。


「大丈夫よ。 今は修行中だからコンテストなんて応募してないもの。」

話が纏まったところで横島達と高畑も入って写真を撮り始めるが、さよと明日菜なんかは改めて写真を撮るとなると身構えてしまうようで表情が堅い。

女性は横島や明日菜達に声をかけて話をしながら何枚も写真を撮っていってしばらく撮影は続いた。


「やっぱりお兄さんってなんかいいわね。 なんていうか不思議なオーラみたいなのがある気がするわ。 人にはないなんか魅力があるのよね。」

撮影した写真は後日郵送してくれるとのことだが、撮影を終えた女性は少し冗談っぽく横島を撮った感想を口にする。

それは見習いだが写真家としての女性の素直な意見であり、明日菜とさよはその言葉が的を得ていると思ったのか驚いていた。


「褒めてもお年玉はやらんぞ。」

「そんなつもりじゃないよ。 私はプロとしてはまだまだ半人前だけど、人物はもう何年も撮ってきたの。 ファインダー越しに見えるお兄さんは普通の人とは違って見えただけ。 それが私の見間違いなのかどうかまでは分からないけど。」

ただ横島は冗談かお世辞と受け取ったようで、自身もお年玉はやらんと冗談で返す。

しかし女性は自身の写真に対する自信はそれなりにあるようで、実際に彼女はカメラを通して何かを確かに感じたようである。


「お釣りはいいから、今度時間があったら店に来てくれよ。 正月開けたらあの時に一緒だった子も店に居るからさ。」

本来写真には写らぬ何かを感じた女性に横島は写真代金として一万円を渡すと、お釣りを断る代わりに今度店に来て欲しいと告げて女性と別れていく。


「なにカッコつけてるんですか。」

「俺だってたまにはカッコつけたいんだよ! それに餞別くらいやってもバチはあたらんだろ。」

女性と別れた横島達はそのまま人の流れに乗り屋台を覗いていくが、明日菜はタダでいいと言われた写真にわざわざ一万円を出してお釣りも受け取らなかった横島を笑いながらからかっていた。
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