平和な日常~冬~4

一方この日の雪広邸では親戚縁者が集まり賑やかになっていた。

那波家とは違い百年以上前から財閥であった雪広家は当然ながら交流がある親戚や縁者は多い。

特に雪広グループでは重要ポストに就いている親戚縁者もそれなりにいて一族の結束は強い方だった。

現代では財閥のような世襲による企業経営は批判されることも多いが、何事にも長所と短所は存在していているので必ずしも一方的に悪いわけではない。

そもそも雪広家の現当主である清十郎は戦後の高度経済成長からバブル景気とその崩壊後の現在まで、トータルでは経営に成功しているので一族の信頼も厚い。


「近右衛門にも困ったもんじゃな。 あやつは自分の代わりがいないことを本当に理解してないわい。」

そんな雪広家であったが清十郎はついさっき連絡があった近右衛門が来るという話に、思わずため息を漏らし何とも言えない表情をする。

長い付き合いなだけに近右衛門の気持ちも十二分に理解しているが、同時に万が一近右衛門に何かあればそれは個人の問題では収まらなくなることも理解していた。


「そう言えば木乃香さんが学園長先生のスケジュールで悩んでましたわ。」

「悩みたくもなるじゃろうて。 表のスケジュールだけでも近右衛門は忙しいからのう。」

雪広邸でもこの日来ている親戚縁者には近右衛門が挨拶に来ると伝えたが、魔法を知るような主要人物には挨拶を口実にした休養に来ることを伝えている。

当然昨日魔法を知らされたあやかにも真相は伝えたが、清十郎と一緒に居たあやかと姉のさやかの二人は元旦から休養に来る近右衛門に複雑そうな表情を見せた。

特にあやかは少し前から木乃香が近右衛門の働きすぎについて不満を持って悩んでいたことを知っているだけに、少し呆れ気味な様子でもあった。

なんというか真面目によく働くのは日本では美徳の一つではあるし悪いわけではないのだが、家族に心配をかけるほど働くことは褒められたものではない。


「いい加減周りが止めねばならん時期かもしれんのう。」

現在の情勢では近右衛門がゆとりを持って休める日などいつまで経っても来ないことを清十郎は知っている。

この件に関しては先日まで麻帆良に居た穂乃香ともいろいろ相談したが、そろそろ誰かが止めねば近右衛門は命続く限り無理をしかねない状況だった。


「あまり口を挟みたくはないのじゃが……」

正直なところ魔法協会にはあまり口出しするべきではないと考えており止めるべきか見守るべきか悩むが、近右衛門を心配する穂乃香や木乃香の為にも止めるならば自分でなくてはならないと清十郎は思う。

ただこの件に関しては具体的な仕事量や負担軽減など検討や調整せねばならないことも多い。

それでも現状では近右衛門の負担軽減は可能だと清十郎は見ており、その為には那波家や横島側と今後のことについてもっと話し合う必要があると考える。

いろいろ濃い情報ばかりで忘れがちであるが、そもそも横島との協力は先月に始まったばかりでまだまだ話し合いが足りないのが現状だった。

横島自身に関しても遠慮してるのかあまり個人的な意見を言わないので、清十郎はその辺りもしっかりと聞きたい。


「横島君は近右衛門の状況をどう見ておるんじゃろうか?」

「横島さんですか? 彼も呆れてましたわ。 尤も学園長先生にも考えがあるんだろうとも言ってましたが。」

そのまま近右衛門のことを考えしばし無言になった清十郎が突然ぽつりと横島の名前を出すとあやかとさやかの姉妹は驚き顔を見合わせる。

姉妹も清十郎が横島に期待しているのは以前から理解しているが、あやかもさやかもそれは将来的なものだとばかり思っていたのだ。

現時点で横島の名前を出すほど期待しているのは驚きであった。


「うむ、横島君が説明する際にはわしらも同席した方がいいかもしれんな。 ついでに近右衛門もゆっくりと休めて今後の話もするべきじゃろう。」

そんな驚く姉妹を見た清十郎は、二人が横島の秘密を知ったらどんな顔をするのかと楽しみに感じると一つの考えが徐に浮かぶ。

近右衛門達は横島が自身のことを説明する際には任せるつもりであったが、清十郎はいっそのこと自分達もその席に同席するべきだと考え始める。

元々横島とは今年の年始めに異空間アジトで会合をしようかとの話をしていたこともあって、それらを同じ機会にするべきだろうと考えたようだ。

無論子供達には聞かせられない会合は大人達だけでやるが、他は一緒にしても問題はないし少なくも近右衛門をゆっくりと休ませるには家族が必要なのは明らかであった。

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