同じ日麻帆良市内の那波家では千鶴が実家で家族水入らずの元旦を過ごしていた。

雪広邸のような桁外れな豪邸と違い那波家は比較的何処にでもあるような家であるが、こちらも世間一般と比べると立派な家であることに変わりはない。

尤も会社の規模に比べると幾分地味であることに変わりはなく、そもそも那波重工は千鶴の祖母である千鶴子の代で大きくなった会社なので千鶴が生まれる前までの那波家はごく普通の家に住んでいた。

千鶴が生まれる際に元々住んでいた家がだいぶ痛んでいたので思いきって建て替えたのだが、千鶴子自身は一般家庭の育ちなので多少贅沢しても雪広邸のような豪邸は必要なかったようである。


「何度見ても不思議ね。」

そんなこの日の千鶴は前日に明かされた魔法や魔法関係の話を両親と祖母としているが、正直なところ実感に関しては今一つといったところだ。

無論昨日にはいろいろな魔法を見せて貰ったし、実は千鶴の父の衛はごくごく初歩の魔法ならば使えたので先程から見せて貰っているが何度見ても不思議なものであった。


「久しぶりに魔法を使ったよ。 俺と政樹なんかは若い頃に詠春と穂乃香君に少し教わってね。 一時期魔法使い目指したこともあるけどあの二人の実力を見たら無理だと思って諦めたんだよ。」

小さな火を灯す魔法やそよ風を吹かせる魔法を使って見せる衛は、若い頃に魔法に夢中になったと昔話を語ると千鶴は興味深げに聞いている。

魔法という不思議な力は千鶴とて興味があるし、身近な人達がそれを当然の世界に生きてきたことは今までに千鶴が聞いてきた昔話と比較して考えると隠されていた真実が明らかになったので純粋に面白かった。


「魔法は才能の有無で天と地ほど差が出るからな。 それが欠点でもあるんだよ。 極論を言えば魔法の才能は人格とは無関係だし、魔法社会においては少なからず魔法の実力が物を言う。 しかも魔法の才能は遺伝と関係があるらしいから、そこから自然と格差が生まれる。 麻帆良はまだましだけどね。」

現実という世界に魔法があることは夢や希望はもちろんあるが、同時に人間社会の問題を複雑化させる側面もあり両親は千鶴に対してその辺りの負の側面もきちんと教えなくてはならない。

魔法という力で夢を叶えたり立身出世をしたなんて話もあることはあるが、それ以上に才能の壁で挫折した魔法使いはその後の人生で苦しむことも多いのである。

基本的に魔法使いは閉鎖的な社会というかコミュニティを作りがちであり、その中で序列が出来てしまうとなかなか抜け出すのに苦労をする。

麻帆良は比較的自由な空気だが、それでも完全に問題がない訳ではなく刀子の立場など典型的な一例であった。


「魔法に関しては落ち着いたら葛葉先生か横島君に聞くといい。 正直俺達には教える技術はないからな。」

「マスターですか。」

ただし魔法という未知の力や技術とそれに関わる話をきちんと教えてくれる両親が、何故か横島に関しては一切教えてくれないことが千鶴は一番不思議でならない。

それほど複雑な事情でもあるのかと心配にもなるのだが今のところ横島との関わり方について否定的な意見は全く言われていなく、むしろきちんと横島と話をするようにと昨日雪広清十郎に雪広姉妹と一緒に言われている。


「横島君個人に問題がある訳じゃないよ。 ただちょっと話だけじゃ説明出来ない経歴でね。 規格外というかなんというか……。」

結局千鶴の一番の興味は唯一何も教えてくれない横島のことに集中するが、こればっかりは両親も祖母も無理だと言わんばかりだった。

そもそも横島と異空間アジトなどの遺産と魔王の細かな関係や経緯は誰も知らないので説明のしようがないのだ。

千鶴はそんな両親や祖母ですらも悩ます横島に期待と不安が入り交じった心境であった。