平和な日常~冬~4

「龍宮さんも凄いわね、護身術でもやってるのかしら?」

そのまま軽い挨拶程度で真名を見送った横島達だが、明日菜は初めて見る真名の実力の一端に興味深げであった。

大の男を投げ飛ばした実力もさることながら、顔色一つ変えなかったことも印象深い。

元々2ーAのクラスでは古菲が誰もが認める格闘バカとしてその実力を知られているが、エヴァは元より龍宮や刹那は基本的には大人しい生徒であり当然ながら実力は隠している。

まあ多少例外があるとすれば楓が時々忍者紛いの行動をすることだろうが、こちらは裏との関わりがないだけに少し事情が違う。


「護身術ねぇ……。」

一方の横島は初めて見る真名の実力の一端に、護身術などという生易しいものではないと感じていた。

横島の場合は真名の簡単な経歴はもちろん知っていたが、実際に目の前で見ると印象がまた違うものがある。

一言で言えば真名の本質はカタギの人間ではなく、生と死の狭間で生きる者特有の雰囲気を感じていた。

なんというかワルキューレに中学生をやらせればあんな感じになるのではと横島は思う。

現状では敵には回したくないが、かといってわざわざ取り込むほどでもないというのが横島の印象である。

ぶっちゃけ横島とすれば真名のような人を身近に置くと戦いに巻き込まれそうで嫌なのだが。



「ねえ、あれなに?」

そんな真名の話から話題を逸らしたのは、瞳を輝かせてクンクンと匂いを嗅ぐようなタマモであった。

タマモが興味津々な様子で指差す先には人だかりが出来ていて甘酒が配られている。


「甘酒だな。 飲みたいのか?」

「うん!」

そういえばタマモに甘酒を飲ませたことがなかったなと思う横島は、一応確認の為に聞いてみるもタマモは当然ながら満面の笑みで頷いていた。


「うわ~、甘くて美味しいですし、暖まりますね。」

結局タマモの要望に答える形で甘酒を貰う列に並んだ横島達はほどなくして甘酒を貰うと、タマモに飲ませたことがない甘酒は当然さよも初めてでありさよは最初少し慎重だったがすぐに美味しそうに飲み始める。


「そういえば、いつだったか甘酒作って失敗したことあったな。」

「ありましたね。 あの時はいつの間にか気持ちよくなっちゃって……」

さよに続きタマモもクンクンと匂いを嗅いで甘酒を飲み始めるが、高畑はふと明日菜が幼い頃に甘酒を作って失敗した話を思い出していた。

テレビか何かで甘酒を知った明日菜が飲みたいと言い出したので作ったらしいが、アルコールを飛ばすのが足りなかったらしく明日菜が酔っぱらってしまったことがあったらしい。

明日菜は酔っぱらってからのことはあまり覚えてないようだが、実は酔っぱらった明日菜を心配して高畑が回復系魔法が使える人の元に明日菜を抱えて見せに行ったことは高畑にとって今ではいい思い出である。

紙コップを両手で持ち美味しそうにゴクゴクと甘酒を飲むタマモとそんなタマモを優しく見守る横島の姿に、明日菜と高畑はやはり共に過去の自分達を重ね合わせてしまうようで思わず笑ってしまっていた。



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