平和な日常~冬~4

元旦の朝食は明日菜と高畑が帰宅してからだったので、いつもより少し遅い時間になっていた。

やはり元旦の新聞配達は量が多くて大変だったらしく明日菜は冷えた体をこたつで暖めながらの朝食である。


「あー、あったまるわ。」

今朝のお雑煮は明日菜と高畑に合わせて関東風のすまし仕立てにしたが、ダシの効いたお雑煮は早朝から働いていた明日菜の胃袋に染み渡るような優しい味であった。

続けておせち料理の入った重箱も開けて食べるのだが、こちらは調理を手伝った明日菜達も驚くほど華やかで本格的なおせち料理になっている。

実のところ自宅の分は個別に保存していたので、重箱に詰めたのは今朝であり明日菜やさよもおせち料理としての完成品を見るのは始めてだったのだ。


「どうだ? 美味そうだろ!」

「横島さんって真面目にやると本当に凄いのよね。」

それは料理の味以前に日頃はあまり盛り付けを気にしない横島が、珍しく盛り付けに本気になった逸品である。

横島自身も自慢げに自画自賛するが流石の明日菜も突っ込みどころがないほどであり、何故日頃から真面目に出来ないのかと思ってしまうほどだった。

正直日頃の横島が見た目を一番気にするのは、さよのお弁当であって売り物ではない。

この情熱をなんとか仕事に生かせないものかと思わず考えてしまうが、元々気分屋で自分が楽しめないことはやらない横島だけに無理だろうなと明日菜は半ば諦めている。

横島の困ったところは下手に本人にその気がないことをやらせても横島の良さを消す可能性が高いことだろう。


「さあ、今日は飲むぞ!」

「えっ、朝からお酒を飲むんですか?」

あの横島が自慢するだけの料理を前に期待に胸を膨らませ食べようとする明日菜とタマモ達だが、横島は何故か朝からお酒を飲む気のようで周りを驚かせてしまった。


「正月は朝から酒を飲むものなんだよ。」

「そうなんですか?」

横島は当然のように正月は朝からお酒を飲むものだと熱弁を振るうが、明日菜は呆れ顔であるしいまいち信用はないらしくさよは高畑に話を振る。


「えーと、どうなんだろうね。 僕は日本人じゃないからなぁ。」

純粋に信じてしまいそうなさよとタマモの視線と、横島の意味ありげな視線に困った高畑は日本人じゃないからと笑って誤魔化すしかなかった。


「今日くらいはいいんじゃないですか。 ただし量はほどほどにしてくださいね。」

高畑が誤魔化したことで明日菜は仕方なく口を挟むが、正月なんだし今日くらいは好きにしていいかと考えたようだ。

尤も横島は放っておくと好きなだけ飲むので量は飲み過ぎないようにと釘は指したが。


「家の親父なんて三が日ほとんど飲んでたけどな。 知り合いはシャンパンとキャビアで寝正月してたらしいし。」

「シャンパンとキャビアで寝正月って……」

結局横島は明日菜が認めたことでさよとタマモも納得したので高畑を巻き込んで酒を飲み始めるが、ついポロッと溢してしまったかつての上司の正月の過ごし方に明日菜は表情を引き釣らせていた。

コブラの本来の持ち主のこともあり横島の昔の話には時々金持ちっぽい人がちらほらと出てくるが、正直なところその人も普通じゃないんだろうなと明日菜はしみじみと思う。

そもそもお金持ちなのに正月はシャンパンとキャビアで寝正月なんて不健全だとしか思えないし、そうして考えてみると年末年始に海外に行く人はまだ健全に見えるから不思議だった。
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