平和な日常~春~

次の日、横島は店の営業をしつつ鍋を煮込んでいた

麻帆良祭で営業する事を決めたからには何か特別なメニューが欲しいと考えていたのである


「うーん、美味いんだけどなんかインパクトがな……」

鍋の中には琥珀色のスープに大根・タマゴ・厚揚げなどのオデンの具が煮込まれているが、スープはコンソメをベースにした物だった

麻帆良祭限定料理の試作一号にと洋風おでんを作ってみたのだが、いまいちインパクトが足りないと考え込む


「おでんってより変わり種ポトフに近い気が……」

美味しいし悪い出来ではないのだが、ぶっちゃけると普通のおでんの方がいい気もする

スープは具に合うように調整したが、元々がコンソメスープなのでおでんと言うよりポトフに近い気がするのだ


「いらっしゃい、ちょうどよかった。 ちょっと味見しないか?」

午前10時過ぎの一番暇な時間にふらりと来店して来たのはエヴァだった

注文を聴きに行く時にちょうどいいからと試作のおでんをエヴァに出すが、エヴァはまた何か作ったのかと僅かに呆れた視線を向ける


「味は悪くないが……、これがどうしたのだ?」

視線を全く気にしない横島が見守る中、エヴァは渋々出されたおでんを食べるが味自体は悪くないらしい

というか他人を褒める事がないエヴァの場合は、悪くないという事は美味しいに近いのだろう


「麻帆良祭期間中に出すメニューを考えてるんだ。 なんかいいメニューがないものか……」

珍しく真剣な表情で腕組みして考え込む横島をエヴァは静かに見つめていた

茶々丸が横島と親しいので他人に興味がないエヴァにしては横島は興味を持ってる方だが、いまいち掴み所がないというのが印象である


(どこをどう考えれば喫茶店でおでんを出そうと考えるんだ?)

喫茶店ならば普通は焼きそばなどの軽食かスイーツ系を考えるべきだろうと思うエヴァだったが、そこを指摘するほど親しくはない

おかしな男だと思いつつ持参した本に視線を向けて時間を潰していく


「スープのベースをトマトにするべきか? いや、普通のおでんの方がいいか?」

カウンターに戻った横島は一人でぶつぶつと呟きながら考えていくが、なかなかいいアイデアが浮かばない

今日も店は平和だった

その頃木乃香達はと言えば、クラスの出し物を話し合っていた

定期テストも終わり麻帆良全体が正式に麻帆良祭の準備期間に入った為に2ーAのクラスでも出し物を話し合っていたが……


「稼ぐぞー! この期間で稼げば夏休みはウハウハだよ」

「今年も儲かるといいね」

2ーAの教室では話し合いどころか、それぞれが勝手に話をして盛り上がっている

そんな中でも裕奈とまき絵は特にテンションが高く盛り上がっていた

実は麻帆良学園では生徒による営利目的の活動は認められているが、それなりに制限はあり小学生以下は純粋な営利活動は認められてないのだ
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