一方大晦日のこの日、那波家の人々は雪広邸を訪れていた。

表向きは雪広清十郎に昼食を招待されたので出向いた形になっているが、その実情は当然ながらあやかと千鶴への魔法の情報開示が目的である。

元々あやかと千鶴の二人への情報開示は中学を卒業する時の予定があり、事実雪広家の長女のさやかには中学を卒業した時に明かされていた。

しかし切迫する魔法世界の情勢に加え木乃香への情報開示や横島の存在など、現状でこれ以上あやかと千鶴に隠すのはどう考えてもマイナスにしかならない。

結果として木乃香と同じタイミングでの情報開示になったが、この先雪広家と那波家は今まで以上に協力しなければならいと考えた清十郎が一緒に打ち明けようと提案している。

当然両家の家族が全員揃える日を選んだため大晦日という日になってしまったが、これに関して実は雪広家として長女のさやかをあやかと千鶴は元より木乃香や横島とも信頼関係を築いて欲しいとの事情があった。

横島自身は相変わらず何もする気はないがその裏では土偶羅が魔法世界への介入の準備までも進めているとの事実もあり、将来的に存在感が増すことは考えなくても分かることである。

木乃香や千鶴やあやかだけが横島と親しくなり、さやかだけが距離があるような関係は決して雪広家としては望ましくはなかった。

まあ現実的には雪広姉妹は仲がいいのであやかが横島とさやかの間を上手く取り持つとは思うが、それでも小さなきっかけで家族で争うなんて話は世間にはよくある。

後々になっていきなりさやかと横島が協力するよりは、今から信頼関係を築いて欲しいのが親心なのだろう。

無論那波家の面々もそんな雪広家の事情は理解していて、この際次世代を担う子供達を集めようと考えるのは悪い選択肢ではない。

そんな訳であやかと千鶴はこれから半日かけて魔法関連の基礎的な情報を教えられることになるが、幼い頃より魔法と紙一重で暮らしていた木乃香とは違いあやかと千鶴は普通に驚くことになる。

ちなみに横島に関してはこちらでも魔法関係者として明かすが、立場が特殊なので詳しくは本人に聞いて欲しいという説明しか出来なかった。

そもそも魔法すらまだ理解してない者に異世界やら魔王やら言うと話の収拾がつかなくなるだけなので当然だが。


それと魔法世界の限界や明日菜の過去などは今のところ少女達には明かす予定はなく、当面は一般的な魔法関係者としての知識や常識を教える程度に留める予定になっている。

というか魔法世界の限界はともかくとして、明日菜の過去に関しては真実を知る関係者は誰一人として明日菜本人はもちろんのこと身近な少女達にも明かすべきだとは考えてない。

まあ明日菜の立場や魔法世界の現状を考えると話せないと言うのが現実だが。

実のところ魔法世界の問題はすでに明日菜の去就で済む段階ではない。

仮に明日菜が黄昏の姫御子として魔法世界に戻っても出来ることは魔法世界に現有する魔力をより世界を構成する魔力に循環させて延命させることだけであり、根本的に不足する魔力が増える訳ではないのだ。

この辺りは複雑な二つの世界の歴史や情勢もあり一概には言えないが、現状で誰も根本的に魔法世界を救う気がない以上は明日菜の去就に関係なく混乱は訪れるだろう。

それと魔法世界の維持には少なからず地球の魔力を持っていっているので、下手に魔法世界を延命すると地球側にも悪影響が強まるのだが。


少し話が逸れたが現状で近右衛門達が考えているのは、木乃香達を次世代の麻帆良の中核を担う存在としてこれからゆっくりと教育することであった。

あやかと千鶴に関しては今後魔法そのものよりは、魔法に関わる政治や経済などを学んでいくことになる。