平和な日常~冬~4

「味見したいのか?」

「うん!」

さておせち料理を作っている横島達だが、黒豆や栗きんとんに伊達巻など初めて見る料理の数々をタマモは食い入るように見つめていた。

いつの間にか食いしん坊になってしまったタマモは日頃から調理中によく味見をしており、この日もそれを期待してる様子である。


「せっかくだから明日に楽しみは取っておかなくていいのか?」

横島自身はタマモに甘いのでいつもはすぐに味見をさせていたが、この日ばかりは明日に楽しみを取っておいた方がいいかと考える。

初めての正月なので、きっと思い出に残るだろうと思うのだ。


「う~ん。」

そんないつもと違う対応の横島にタマモはハッとした様子で真剣に悩み始めてしまう。

食欲をそそる美味しそうな匂いの誘惑と明日みんなと一緒に食べたいとの思いの間で揺れるタマモは、腕組みをして真剣に悩むがそれは味見をするかどうかで悩んでるとは思えぬほど真剣であった。

横島は悩むタマモの姿を微笑ましく眺めながら調理を続けていく。


「そうそう、そんな感じ。 上手いな。」

その後は結局味見を我慢したタマモが見守る中で、横島は明日菜とさよに料理の基礎を少し教えながら味付けや火加減なども教えておせち料理を一緒に作っていた。

特におせち料理は和食なので煮しめなんかもあり明日菜達のいい勉強になっている。


「横島さんと木乃香を見てると簡単そうなんだけどね。」

「失敗したらって思うと不安ですよ」

ただ見てるのと実際にやるのでは全く違い、日頃から鼻歌混じりに楽しげに料理している横島や木乃香と比べるとその違いに二人は困惑気味であった。

尤も料理自体は得意ではなくとも興味はあるようで、二人とも結構真剣に学んでいたが。


「失敗してもいいから気楽にやればいいって。 慣れない頃は誰でも失敗するしな。」

横島の店においては基本的に木乃香とのどかは料理を習っているが、明日菜やさよは包丁の使い方などごくごくシンプルな基本しか教わってない。

その結果明日菜やさよは苦手意識があるようだが、横島から見た二人の料理の腕前は実はそれほど下手な訳でもなく普通かなという印象だった。

料理に関してはどうしても木乃香が天才的な才能を発揮してるので比較してしまうようだが、そもそも現在の横島の腕前に着いていってる木乃香が普通ではないだけである。



「料理が上手いのはポイントが高いぞ。 男なんて単純だからな。」

そのまま和気あいあいと料理をしていく横島達だが、この調子で料理を覚えれば将来彼氏が出来た時に役立つと自信ありげに話す横島を明日菜とさよは何とも言えない表情で見ていた。

言ってることは最もなのだが基本的に恋愛オンチで女性に偏見に近いトラウマがある横島が言うとイマイチ説得力がない。


「高畑先生だって絶対に喜ぶぞ。」

「確かに高畑先生にはいつか料理を振る舞ってあげたいけど……」

そして明日菜が特に何とも言えない極めつけは、横島が未だに明日菜が高畑を好きだということを前提によく話をすることだろう。

ぶっちゃけ明日菜は高畑への想いが恋愛とは違うと最近自覚しつつある。

もちろん未だに迷いがあることは確かだが横島達を見ていると家族というものを考えさせられるし、タマモに自身の過去を重ね合わせもして考えていた。

結果論かもしれないが明日菜と高畑に相手のことを考えるように仕向けたのは横島のはずなのに、その本人が未だに明日菜の変化を理解してない様子なのは不思議で仕方がない。

もしかしたら気付かないふりをしてるのかなとも思うが、案外本当に気付いてない可能性もない訳ではないのだ。

加えて明日菜は横島が未だに自分のことを女性として見てないような発言には、モヤモヤしたものを無自覚ながら感じている。

横島が他の女性と仲良くして嫉妬するほどではないが、それでも当然のように女性として見られないことが嬉しいはずはなかった。

一度横島の頭の中を覗いてみたいと、この時明日菜は割りと本気で考えていた。




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