平和な日常~冬~4
同じ日、刀子は帰省の挨拶と鶴子との約束のために青山家と神鳴流道場を訪れた。
大晦日のこの日の神鳴流道場には人影が奇妙なほどなく、一般の神鳴流剣士にすら秘匿してる奥義を教えるにはちょうどいいようだ。
そもそも一子相伝とまではいかないが限られた者にのみ継承されている神鳴流奥義弐の太刀の伝授は当然ながら慎重に行わねばならず、実はこの日は他の神鳴流の人間は道場に立ち入り禁止にされている。
尤も神鳴流自体は数百年の歴史があり、その技も奥義もすでに外部に流出してるのが実情なのだが。
もちろん神鳴流の宗家であり本山は当然ながらここだが、過去に神鳴流を学んだ者が独自に伝え継承してる者達も日本国内には居ない訳ではない。
実際問題として宗家で管理している以外の使い手もそれなりに居て、穂乃香や木乃香のように近衛家の人間に神鳴流剣士が護衛に着く最大の理由は敵にも神鳴流が居る可能性があるからだ。
この件に関しては刹那は未熟なので知らされてないが刀子は関東に行く前に聞いている事であった。
「刀子。 覚悟はええか?」
さてこの日刀子に奥義を教えるのはどうやら鶴子のようで、道場には刀子と鶴子の二人だけである。
刀子も鶴子も麻帆良に居た時とは違い張りつめたような緊張感に包まれているが、鶴子は厳しい表情で刀子に言葉をかけ始めた。
「始める前にこれだけは言うておくわ。 神鳴流も所詮はただの力の一つでしかないんや。 人を護るなんて体裁を整えても所詮は権力者に従い護る者と護らん者を区別してきた。 長い歴史においてそんな神鳴流に反発した者も居たらしいわ。 刀子、弐の太刀を身につける言うことは、これから先あんたは何を護り何と戦うか自分で判断してもらわねばならんのや。 よく覚えておいてや。」
現在神鳴流では諸々の問題から弐の太刀以外の奥義を極めると免許皆伝としているが、本来は弐の太刀を含めて極めるた者にのみ免許皆伝となる。
実のところ弐の太刀が制限された理由は技の難易度も当然あるが、その理由の本質には弐の太刀の技の性質なんかも関係あった。
そして張りつめたような空気の中でいよいよ刀子への奥義伝授が始まることになる。
「ゴホゴホ、酷いな。」
一方この日の高畑は自宅で大掃除とまではいかなくとも部屋の片付けと掃除をしていた。
かつて明日菜と暮らしていた頃は明日菜の為に部屋を片付けていた高畑だが、一人暮らしになると日々の忙しさからいつの間にか部屋には片付けていない書類や荷物が山積みになっている。
流石にごみなど落ちてるほどではないし台所なんかは全く使わないのでさっぱりとしているが、掃除はしばらくしてないのでほこりなんかは至るところに溜まっていた。
以前の高畑は自宅には寝に帰るだけなのであまり気にしなかったが、最近は自宅に居る時間も増えたので気になっていたようだ。
「これは……」
とりあえず窓を開けて書類や荷物の整理を始めた高畑だが、クローゼットを開けると中は驚くほど整理されていて明日菜と暮らしていた時のままになっている。
そして明日菜が女子寮に持って行けなかった初等部時代の物が入ったダンボールもそのまま残っていて、ふと中を開けて確認すると呆然としたように固まってしまう。
「……何故僕は気付かなかったのだろう。」
ダンボールの一番上にあったのは、明日菜が初等部六年の時に描いた高畑の絵であった。
それは最近の明日菜の絵から比べると明らかに下手だが、高畑の笑顔がよく描けてる絵である。
高畑自身、これほどの自分の笑顔など見たのは初めてかもしれない。
そして明日菜がどんな想いでこの絵を描いたのか、今になってようやく気付いてしまう。
大晦日のこの日の神鳴流道場には人影が奇妙なほどなく、一般の神鳴流剣士にすら秘匿してる奥義を教えるにはちょうどいいようだ。
そもそも一子相伝とまではいかないが限られた者にのみ継承されている神鳴流奥義弐の太刀の伝授は当然ながら慎重に行わねばならず、実はこの日は他の神鳴流の人間は道場に立ち入り禁止にされている。
尤も神鳴流自体は数百年の歴史があり、その技も奥義もすでに外部に流出してるのが実情なのだが。
もちろん神鳴流の宗家であり本山は当然ながらここだが、過去に神鳴流を学んだ者が独自に伝え継承してる者達も日本国内には居ない訳ではない。
実際問題として宗家で管理している以外の使い手もそれなりに居て、穂乃香や木乃香のように近衛家の人間に神鳴流剣士が護衛に着く最大の理由は敵にも神鳴流が居る可能性があるからだ。
この件に関しては刹那は未熟なので知らされてないが刀子は関東に行く前に聞いている事であった。
「刀子。 覚悟はええか?」
さてこの日刀子に奥義を教えるのはどうやら鶴子のようで、道場には刀子と鶴子の二人だけである。
刀子も鶴子も麻帆良に居た時とは違い張りつめたような緊張感に包まれているが、鶴子は厳しい表情で刀子に言葉をかけ始めた。
「始める前にこれだけは言うておくわ。 神鳴流も所詮はただの力の一つでしかないんや。 人を護るなんて体裁を整えても所詮は権力者に従い護る者と護らん者を区別してきた。 長い歴史においてそんな神鳴流に反発した者も居たらしいわ。 刀子、弐の太刀を身につける言うことは、これから先あんたは何を護り何と戦うか自分で判断してもらわねばならんのや。 よく覚えておいてや。」
現在神鳴流では諸々の問題から弐の太刀以外の奥義を極めると免許皆伝としているが、本来は弐の太刀を含めて極めるた者にのみ免許皆伝となる。
実のところ弐の太刀が制限された理由は技の難易度も当然あるが、その理由の本質には弐の太刀の技の性質なんかも関係あった。
そして張りつめたような空気の中でいよいよ刀子への奥義伝授が始まることになる。
「ゴホゴホ、酷いな。」
一方この日の高畑は自宅で大掃除とまではいかなくとも部屋の片付けと掃除をしていた。
かつて明日菜と暮らしていた頃は明日菜の為に部屋を片付けていた高畑だが、一人暮らしになると日々の忙しさからいつの間にか部屋には片付けていない書類や荷物が山積みになっている。
流石にごみなど落ちてるほどではないし台所なんかは全く使わないのでさっぱりとしているが、掃除はしばらくしてないのでほこりなんかは至るところに溜まっていた。
以前の高畑は自宅には寝に帰るだけなのであまり気にしなかったが、最近は自宅に居る時間も増えたので気になっていたようだ。
「これは……」
とりあえず窓を開けて書類や荷物の整理を始めた高畑だが、クローゼットを開けると中は驚くほど整理されていて明日菜と暮らしていた時のままになっている。
そして明日菜が女子寮に持って行けなかった初等部時代の物が入ったダンボールもそのまま残っていて、ふと中を開けて確認すると呆然としたように固まってしまう。
「……何故僕は気付かなかったのだろう。」
ダンボールの一番上にあったのは、明日菜が初等部六年の時に描いた高畑の絵であった。
それは最近の明日菜の絵から比べると明らかに下手だが、高畑の笑顔がよく描けてる絵である。
高畑自身、これほどの自分の笑顔など見たのは初めてかもしれない。
そして明日菜がどんな想いでこの絵を描いたのか、今になってようやく気付いてしまう。