「本当に耳が痛いよ。」

一切の遠慮がない言葉は高畑の心を容赦なく傷付けるが、高畑自身はそれを若干心地よくも感じている。

無論高畑がマゾだという意味ではなく同僚や近右衛門達は高畑から見ると優しすぎるので、高畑に現実の厳しさを改めて突き付けるのはエヴァくらいしか居ないからだ。

ただそれでも答えが出せぬほど高畑の悩みは深い。


「相変わらず悪い癖が直ってないな、タカミチ。」

その後エヴァが無言になると高畑は一人で準備運動のように軽く身体を動かすと、すぐにエヴァと手合わせするが結果は見た目と真逆で大人と子供のような圧倒的なものだった。

高畑は咸卦法を全開にして戦うが咸卦法で上がったスピードでもエヴァは全く捕らえられないし、そもそもの問題として高畑の動きは全てエヴァに先読みされている。


「パワーもスピードも技のキレも貴様はすでにガトウを越えてるだろう。 だが実際に戦えば貴様はガトウには未だに勝てない。 やはり貴様には戦いのセンスがない。」

実際高畑は以前にエヴァが修行をつけた時よりは実力を上げていたが、エヴァは高畑の根本的な問題として戦いのセンスがないと告げた。

それは昔からエヴァが高畑に言っていたことだが、高畑には武術の才能はあっても戦いのセンスがないのだ。

無論それは超一流のレベルでの話だが高畑は元々戦いの上でも駆け引きなど得意ではなく、教わったことや自分の技量の範囲内ならば十分に戦えるがそれ以上の何かをと言われると全くダメだった。

まあ高畑も自分に戦いのセンスがないことを理解してるが故に人並み外れた修行と実戦で純粋な戦う力を鍛えはしたが、単刀直入に言えば実力差をひっくり返すような戦いは苦手なのである。


「アーウェルンクスがどの程度かは直接は知らんが、ガトウが勝てない相手に今の貴様が勝つのは無理だ。 はっきり言えばまだジジイの方が勝てるだろう。」

久しぶりに全力を出して少しすっきりした表情の高畑だが、エヴァは高畑の現状ではアーウェルンクスには勝てないと言い切った。

その言葉には流石に高畑の表情は険しくなるが、高畑自身はそれを理解してるが故にここに来たのだ。


「結局そこから抜け出せないならば、貴様はその程度の器なのだろう。 昔も言ったがそもそも貴様はナギの影を追いすぎている。 自分の力だけで運命を切り開けるのは一部の限られた者だけだ。 貴様はその器ではない。 共に戦う者も作らずただひたすらにナギの意思を継ぐ信念は立派だが、結果が伴わなければ全ては無駄に終わる。」

淡々と語るエヴァの言葉は高畑にとって死刑宣告に等しいものだった。

それは近右衛門では決して口に出来ないことである。


「貴様はいつまで無い物ねだりしてるつもりだ？ ジジイや横島は私を巻き込むつもりだぞ。 私からすれば迷惑な話だが、あの二人の立場からすると正しい選択だろう。 無論私はそれなりの代償を要求するが、やつらに好き勝手にされるよりはマシだろう。 いい加減貴様も目を覚ませ。」

険しい表情のまま拳を握り締める高畑は一切の言葉を発することなくエヴァの言葉を胸に刻むが、近右衛門や横島がエヴァを巻き込むつもりだと聞くと驚きの表情を見せる。

実のところ横島に関しては完全にエヴァの誤解だが、エヴァは近右衛門や横島が何かしらの理由で万が一の時は自分を巻き込む気だとばかり思っていた。

エヴァとしては明日菜の件をまだ知らないのでイマイチ理由を掴みきれて無かったが、横島が語った魔法世界の限界に絡んで秘密結社完全なる世界やメガロメセンブリアと一波乱あるのは考えなくても分かる。

正直他人に利用されるのなどゴメンだが、それでも近右衛門や横島の立場から考えると一定の理解は示していた。