平和な日常~冬~3
「お帰り、夕映。 勉強はまあまあだけど、アルバイトは頑張ってるみたいね」
一方帰省した夕映は母親に通知表を渡し久しぶりの我が家で寛ぐが、母は通知表を見て少しため息をつくと突然アルバイトの話をはじめる。
「父さんにアルバイトがバレたのですか?」
「ええ、なんでも取引先の人から聞いたらしいわ。」
久しぶりに娘の顔を見た母は機嫌がいい様子であるが、アルバイトの話は出るかもしれないと夕映は帰省前から思っていた。
そもそも夕映はお爺ちゃんっ子であり、父とはイマイチ関係が良くない。
以前にも少し説明したが元々綾瀬家では祖父と父の折り合いが悪く、お爺ちゃんっ子の夕映は祖の価値観や考え方に近いので夕映もまた父との折り合いが悪くなってしまったのだ。
「取引先の人と言うのは雪広グループの方ですか?」
アルバイトの件に関しては母には了解は取ったが実は父には話してなく、母も父が勘づくまでは黙っていてくれたらしい。
母としては勉強に支障が出来ないようにとは言ったが、元々社交性に問題があった娘が接客業のバイトをすることには賛成してくれたのだ。
「ええ、貴方が雪広グループのプロジェクトに参加してるって聞いて頭を抱えていたわ。 本音では辞めさせたいんでしょうけどお爺ちゃんとの約束もあるし、すでに始まってる取引先のプロジェクトを辞めさせる訳にもいかないもの。」
正直夕映もそろそろ父にバレる頃かと思っていたが、その原因が雪広グループ関係者だと聞くと何とも言えない表情になる。
本来は頃合いを見計らって母が話すものだとばかり思っていたのだ。
「その件はいろいろ偶然が重なったのですよ。」
「先方が随分と褒めてたらしいわ。 なんでも雪広コンツェルンでは有名らしいじゃない。」
実のところ母も喫茶店でアルバイトをする件は聞いたが、一流企業が主導するプロジェクトメンバーになっているなど知らなかった。
そもそも夕映が雪広グループに関わっているのは横島の代わりの人数合わせであり、夕映本人も邪魔にならない程度にお手伝いしようとしか考えてなかったのである。
「お爺ちゃんが生きてたら喜んだでしょうね。」
母から聞く雪広グループの側からの自身の話は、夕映にとってまるで別人のことのように感じるほど違和感があった。
今までにも誉められることがなかった訳ではないが夕映はそれをリップサービス程度にしか受け取ってなく、正直自身の評価をあまり気にしたことがない。
そんな驚くような戸惑うような夕映だが、母は今は亡き祖父を思い出し喜んでいるだろうと笑顔を見せる。
祖父は夕映が初等部六年生の時に亡くなったが、遺言により自身の遺産を夕映の大学卒業までの学費に充てるようにと遺していた。
麻帆良学園に通うのにかかる費用は学費や寮費など一般家庭には決して安くはない負担があるが、祖父はそれを全て自分が出す代わりに夕映の進路を好きなようにさせるようにとも言い残している。
夕映の母は祖父や夕映と父の板挟みで大変だったことも多かったが、この一年で別人のように成長した娘を祖父に見せたかったとしみじみと思う。
「そうだ、お土産があるのですよ。」
そのまましばらく亡くなった祖父に想いを馳せる夕映と母だが、夕映はお土産をまだ渡してなかったことを思い出し仏壇に供えて祖父の位牌に手を合わせる。
「なんか高級なお歳暮みたいなお土産ね?」
「ああ、それはアルバイト先のマスターが持たせてくれたのですよ。 心配かけただろうからと……」
一方母はお土産の中身を見て少し驚いたように首を傾げた。
包装紙はまだ普通だったが、そもそも箱からしてお土産には不釣り合いなほど高級感がある。
中身も焼き菓子やジャムに紅茶など、どちらかと言えばお歳暮に見えていた。
「あらまあ、しっかりとした人なんですね。」
どうやら中身が気に入った母はお土産を持たせた横島をしっかりとした人なんだと勝手に想像するが、夕映は日頃の横島を思い出し複雑そうな表情を浮かべていた。
一方帰省した夕映は母親に通知表を渡し久しぶりの我が家で寛ぐが、母は通知表を見て少しため息をつくと突然アルバイトの話をはじめる。
「父さんにアルバイトがバレたのですか?」
「ええ、なんでも取引先の人から聞いたらしいわ。」
久しぶりに娘の顔を見た母は機嫌がいい様子であるが、アルバイトの話は出るかもしれないと夕映は帰省前から思っていた。
そもそも夕映はお爺ちゃんっ子であり、父とはイマイチ関係が良くない。
以前にも少し説明したが元々綾瀬家では祖父と父の折り合いが悪く、お爺ちゃんっ子の夕映は祖の価値観や考え方に近いので夕映もまた父との折り合いが悪くなってしまったのだ。
「取引先の人と言うのは雪広グループの方ですか?」
アルバイトの件に関しては母には了解は取ったが実は父には話してなく、母も父が勘づくまでは黙っていてくれたらしい。
母としては勉強に支障が出来ないようにとは言ったが、元々社交性に問題があった娘が接客業のバイトをすることには賛成してくれたのだ。
「ええ、貴方が雪広グループのプロジェクトに参加してるって聞いて頭を抱えていたわ。 本音では辞めさせたいんでしょうけどお爺ちゃんとの約束もあるし、すでに始まってる取引先のプロジェクトを辞めさせる訳にもいかないもの。」
正直夕映もそろそろ父にバレる頃かと思っていたが、その原因が雪広グループ関係者だと聞くと何とも言えない表情になる。
本来は頃合いを見計らって母が話すものだとばかり思っていたのだ。
「その件はいろいろ偶然が重なったのですよ。」
「先方が随分と褒めてたらしいわ。 なんでも雪広コンツェルンでは有名らしいじゃない。」
実のところ母も喫茶店でアルバイトをする件は聞いたが、一流企業が主導するプロジェクトメンバーになっているなど知らなかった。
そもそも夕映が雪広グループに関わっているのは横島の代わりの人数合わせであり、夕映本人も邪魔にならない程度にお手伝いしようとしか考えてなかったのである。
「お爺ちゃんが生きてたら喜んだでしょうね。」
母から聞く雪広グループの側からの自身の話は、夕映にとってまるで別人のことのように感じるほど違和感があった。
今までにも誉められることがなかった訳ではないが夕映はそれをリップサービス程度にしか受け取ってなく、正直自身の評価をあまり気にしたことがない。
そんな驚くような戸惑うような夕映だが、母は今は亡き祖父を思い出し喜んでいるだろうと笑顔を見せる。
祖父は夕映が初等部六年生の時に亡くなったが、遺言により自身の遺産を夕映の大学卒業までの学費に充てるようにと遺していた。
麻帆良学園に通うのにかかる費用は学費や寮費など一般家庭には決して安くはない負担があるが、祖父はそれを全て自分が出す代わりに夕映の進路を好きなようにさせるようにとも言い残している。
夕映の母は祖父や夕映と父の板挟みで大変だったことも多かったが、この一年で別人のように成長した娘を祖父に見せたかったとしみじみと思う。
「そうだ、お土産があるのですよ。」
そのまましばらく亡くなった祖父に想いを馳せる夕映と母だが、夕映はお土産をまだ渡してなかったことを思い出し仏壇に供えて祖父の位牌に手を合わせる。
「なんか高級なお歳暮みたいなお土産ね?」
「ああ、それはアルバイト先のマスターが持たせてくれたのですよ。 心配かけただろうからと……」
一方母はお土産の中身を見て少し驚いたように首を傾げた。
包装紙はまだ普通だったが、そもそも箱からしてお土産には不釣り合いなほど高級感がある。
中身も焼き菓子やジャムに紅茶など、どちらかと言えばお歳暮に見えていた。
「あらまあ、しっかりとした人なんですね。」
どうやら中身が気に入った母はお土産を持たせた横島をしっかりとした人なんだと勝手に想像するが、夕映は日頃の横島を思い出し複雑そうな表情を浮かべていた。