平和な日常~冬~3

「冗談のような話なんだけどな。 そもそも世界は一つじゃなく無数に存在してる。 三千世界なんて言葉があるようにな。 空間を超え時を超えた後に最後に超えるのは次元なんだよ。」

返答がないエヴァに横島は淡々と語っていくが、海から吹き抜けてくる潮風の匂いに思わず過去の記憶が蘇ってくる。

ついそのまま記憶の中に埋もれたくなる衝動が込み上げるも、それは真剣に聞いているエヴァに失礼だろうと自重した。


「とことんふざけた男だな。」

横島の語る内容はあまりに荒唐無稽な話である。

エヴァがそれを何処まで信じているかは不明だが、ふざけた男だと呆れたように一言だけこぼす。


「かもな。 ただしこっから先がもっとふざけた話になる。 俺は縁あって前の世界で魔王だったアシュタロスの遺産を継いでる。 さっき話した情報なんかを調べたのはその遺産の管理人をやってる俺の相棒なんだよ。」

「……ちょっとまて、お前今なんと言った?」

「アシュタロスの遺産を持ってるんだよ。 俺。 アシュタロスは知ってるか?」

呆れたような反応をされた横島だが普通は信じるはずがないと、ある意味当然の反応をするエヴァが少し新鮮だった。

まあ近右衛門達があまりにあっさりとした反応だっただけにちょっとつまらなかったとの本音もない訳ではない。

しかし横島の口からアシュタロスの名と遺産の言葉が出ると流石に自分の耳を疑ったらしくもう一度聞くが、横島が単刀直入にアシュタロスの名前と遺産の言葉を言うとポカーンとしていた。


「ふざけるな! アシュタロスの名前など知っとるわ! ! だいたい話が目茶苦茶過ぎるだろうが!」

正直エヴァは異世界の話辺りまでは信じていたのかもしれないが、アシュタロスの遺産の話は全く信じてなかった。

というか横島の説明で信じろと言う方が無理がある。

近右衛門達は騙されてもいいとの覚悟があったのでまた違ったが。


「やっぱ信じないよなぁ。 学園長先生達よく信じたよ。」

「当然だ! まだいかがわしい新興宗教の方が説得力があるわ!!」

「うーん、どうやったら信じて貰えるんだろ。 やっぱ見せた方が早いか?」

あまりに目茶苦茶な話にエヴァは横島が真顔でふさわけてるのだろうと怒り出すが、それに関しては横島の日頃の行いが悪かったとも言える。

しかし横島は真剣であり、どうやったらエヴァが信じてくれるのかと考え込んでしまう。


「百歩譲って仮にアシュタロスの遺産があるとしても、貴様それをどうやって証明する気だ? まさか財宝に名前でも書いてるのか?」

「名前は書いてないな。 ガキじゃないんだし。 そもそも名前が書ける代物じゃないしさ。 遺産ってのはアシュタロスが天地創造した一つの世界そのものだからな。」

ちょうどよく酒も回って来たのだろうエヴァは、横島の話を全く信じてないがそれでも話に付き合う辺りエヴァの横島に対する好感度を表していた。

まあ酒の席での馬鹿話にはちょうどいいと思ったのかもしれないが。


「ほうー、それでなぜそれを貴様が持っている。 アシュタロスでも口説いたのか?」

「いや、アシュタロスは男だったよ。 本来の遺産の継承者はあいつの部下っていうか娘だったんだけどさ。 そのうちの一人とさ……」

「それは凄いな。 では誰もが認めるような確かな証拠を示せるのならば、貴様の願いをなんでも聞いてやろう。 その代わり示せないならば貴様は永久に私の下僕となれ。」

当初真面目だった話は完全に酒の席での馬鹿話になってしまった。

一応横島は真剣だがエヴァは珍しく真剣な横島が逆に胡散臭いとしか感じないようだ。

何処まで馬鹿話をするのかとアシュタロスを口説いたのかと笑って問いかけるエヴァに横島が少し照れたようにアシュタロスの娘とと口にして言葉を濁すと、ニヤリと悪巧みをしてるような表情をして本当ならばなんでも願いを聞くとすら話してしまうことになる。




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