平和な日常~冬~3

さて横島が近右衛門達と会合をしてる頃、刀子と刹那は明日には京都に帰る鶴子と食事をしていた。

誘ったのは鶴子からであり、やはり二人が心配なのだろう。


「刹那どないする?」

いろいろ話すべきことがある鶴子だが、まずは木乃香への魔法の存在が明かされることが決まったことで刹那は自分のことをどう木乃香に説明かすか決めねばならないと告げる。

表情が凍りつくような刹那を刀子は若干心配げに見つめ鶴子は表情一つ変えずに見つめていた。


「私のことは出来れば話さないで頂けますか」

「刹那がそう決めたならウチは構へんけど、お嬢様が自ら刹那のこと聞いたら隠し通せんよ。 長も穂乃香様も嘘まではつけんもの」

出来れば木乃香には知られたくないというのが刹那の本音であり、それは魔法や神鳴流ということよりは自身の正体が根底にあるのだろう。

それに散々冷たく突き放しておいて今更魔法関係者でしたと明かしてもどうしていいか分からないというのもある。


「わかっています。 覚悟はしてます」

「刹那、本当にいいの? 横島君も今回正体を明かすことになるし、タマモちゃんに関しても正体を明かすわよ。 今なら貴女が一人目立つ訳じゃないし……」

結局鶴子は刹那の決断を尊重しつつ隠すには限度があるという態度だが、刀子はどう考えても刹那の決断は悪手にしか思えなく諭すように事情を語り始めた。

横島は自身の素性なんかを話してしまうだろうしタマモの正体も隠す意味がなくなれば横島は話すだろうと刀子は考えている。

言い方は悪いが一緒にどさくさに紛れて話さないと後々苦しくなるのは明らかだった。


「あの子の正体も話すんですか?」

そして木乃香への魔法の情報開示は刹那にとって覚悟していたことであり驚きはなかったが、タマモの正体を明かすと聞くと刹那は驚きの表情を見せた。


「タマモちゃんにとって種族の違いなんて些細なものだもの。 貴女も素性までは明かさなくとも神鳴流としての自分は隠す必要ないと思うわ。 お嬢様のために今まで頑張って来たんでしょう?」

正直タマモが妖怪について理解してるかと言われると全く理解してないだろうと刀子は思うが、同時にそんなタマモだからこそ問題にならないとも思うし木乃香達も普通に受け入れるだろうと考えている。

刹那は今逃げると一生木乃香とわかり合える日が来なくなる可能性だってあると刀子は思うのだ。


「刹那、もし貴女が心の何処かに黙っていても気持ちがいずれはきちんと伝わるなんて甘い考えを持ってるなら捨てなさい。 黙ってれば誤解が膨らんでいずれ真実が知られた時に手遅れになるだけよ。 私のようにね」

タマモの件で動揺を見せた刹那に刀子は畳み掛けるように厳しい言葉をつづけるが、それは刀子自身の経験談であり刹那は心の何処かでいずれ真実が伝われば理解してもらえるとの甘い考えがあることに気付いていた。


「刹那。 この件は私に任せてくれないかしら? 貴女とお嬢様に必要なのはきちんと話すことよ。 私がその場を用意するわ」

そのまま動揺から戸惑いに変わる刹那に刀子は半ば強引にこの件を任せて欲しいと告げる。

対する刹那は今まで苦言は言われてもそこまで強引になったことがない刀子にどう答えていいか分からない。


「そうやな。 ウチもそれがええと思うわ。 お嬢様を守りたいならきちんと話した方がええよ。 それが無理なら新しい人生を見つけた方が刹那のためやわ」

一方刀子と刹那のやり取りを見ていた鶴子は刀子の変化を興味深げに見つめていた。

昔から生真面目な刀子は型にハマるような堅実な性格や行動が当然であり、タイミングや期を見るのは苦手なはずだったのだ。

しかし今の刀子は確実に決断が必要な瞬間を理解していて、決断に必要な型から外れることも恐れてない。

それは昔の刀子にはなかった柔軟性と広い視野である。

加えて実のところ鶴子も近いうちに秘かに木乃香と刹那が話せる場を設けるつもりだったので、刀子の意見は十分理解出来た。

まあ秘かに進めた方が面倒がないことをあえて刹那に言う辺りは決して要領は良くないが、刀子の変化を鶴子は嬉しく感じている。


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