平和な日常~冬~3

結局特に視察先が決まってないことを知った横島は近右衛門達を南極にあるアシュタロス時代の研究所に瞬間移動で連れて着ていた。

「バベルの塔……」

そこはかつて横島が元の世界でアシュタロスと戦った南極の到達不能極にあるバベルの塔を模したアシュタロスの研究所である。

コスモプロセッサーを筆頭に究極の魔体や逆転号などアシュタロス製兵鬼全ての開発とルシオラ達三姉妹が誕生した場所でもあった。

何もない広野の異界空間に果てしなくそびえ立つバベルの塔を見た近右衛門達は言葉を失う。


「ここはアシュタロスの研究所っすよ。 究極の兵鬼から天地創造まであいつが夢見た場所っすかね」

本当に天に突き刺さるほど高い塔はそれだけで横島の言葉が全て本当だったのだと改めて理解させられると同時に、正直自分達は本当にここまで来てよかったのかと感じ怖くもなる。

そんな近右衛門達の心境に気付いているのか不明だが、横島はほんの少しだけ懐かしそうに塔を見上げていた。


「中もちらっと視察しますか。 流石に全部見せるには時間が足りないですけど、中はほとんどアシュタロスが使っていた時のままなんっすよ」

どこか観光ガイドのような横島に案内されるまま一行はバベルの塔の中に入っていくが、あまりの光景に言葉が出ないので無言のまま進んでいく。


「これ何階くらいまであるんだい?」

「頂上はないぞ。 元々特殊な空間に更に特殊な建物にしたから無限に続いている。 尤も流石のアシュ様も使っていたのは数百階までだがな」

「俺も前は使ったけど、広すぎるんだよな」

それからどれくらい過ぎたかは分からないが魔王の研究所というよりは神殿のような内部に、次第に落ち着きを取り戻した近右衛門達の質問に答える形で話を再開するが実際には横島は細かいことをあまり知らないらしく質問にはほとんど芦優太郎が答えている。

ここの施設に関してはルシオラ達三姉妹ですら細かいことを知らないので当然ながら横島も知らない。

横島も以前には使ったことがあったようだが、基本的には土偶羅やハニワ兵がサポートしてるので知らなくても問題なかったらしい。


「最近では魔法世界の空中艦を始めとした技術をここで調査研究したが、それも一段落してからは使ってない」

その後近右衛門達が案内されたのは倉庫のような部屋だった。

中には魔法世界の空中艦からマジックアイテムなどまでジャンルも種類も様々なものがところ狭しと置かれている。

まるで不思議の国に放り出されたように未知の物ばかり見せられた近右衛門達は、ここに来て始めて自分達の知ってる物と出合い少しホッとした様子を見せる者もいた。


「なんか変な物がいっぱいあるな」

そしてこの部屋に入って一人興味津々な様子だったのは横島である。

乗り物から杖や魔法薬まで土偶羅が技術研究と情報収集の為に集めた品は多岐に渡り、全部見るにはこれまた膨大な時間が必要だろう。


「集めとったのは情報だけではなかったのじゃな。」

「わしの本体である土偶羅魔具羅の本来の役目はアシュ様の遺産の管理と新たな情報と技術収集だからな。 この世界に来て以降は魔法世界の情報と技術を収集していた。」

一方の近右衛門は地球では手に入らないような魔法世界の貴重な品々に土偶羅の凄さを改めて感じていた。

実際に近右衛門はともかく穂乃香や他のメンバーは魔法世界に行った経験はないので、魔法世界の空中艦や品々は資料として見たことしかない物も多い。


「それと万が一魔法世界に介入するにしても相手の力量や技術を知らなくば作戦も立てれまい。 実のところこちらの技術はあまり公にはしたくないしな」

「介入の準備もしていたと?」

「あらゆる可能性を検討した結果だ。 あの男は女には甘いからな」

いつの間にか横島と穂乃香達若い世代は芦優太郎や近右衛門達と離れて空中艦の中を見に行ってしまった。

若い者が居なくなったことで芦優太郎と近右衛門は少し込み入ったら話を始めるが、横島達が万が一の介入を準備している事実には近右衛門も清十郎も千鶴子も複雑な様子である。


83/100ページ
スキ