平和な日常~冬~3

「超鈴音が魔法の存在を地球側に公開しようと計画していることは以前報告したが、その方法は具体的に二十二年に一度蟠桃が大量放出する溜め込んだ魔力を利用して強制認識魔法を使うつもりのようだ。 だが現在蟠桃は例年以上に魔力を溜めすぎている。 超鈴音はまだ気付いてないが、こちらの計算ではこのまま放置すれば蟠桃の魔力放出は一年早まるだろう」

いつの間にかドラえもんの話になり少し空気が和むが、それをぶち壊して凍りつかせたのは芦優太郎であった。

超鈴音に関しては最終目標が魔法の公開による世界の変革であることを土偶羅は以前に超鈴音の正体と共に近右衛門達に教えていたが、その計画が一年早まると突然言われて驚かないはずがなかった。


「確かに世界樹の魔力は例年より過剰に溜め込んでいるが、本当に早まるのか?」

横島以外は揃って固まっているが、それは誰もが早まる影響を瞬時には図りかねていたからである。

ただし世界樹については魔法協会でも観測しており、去年と今年は例年より魔力を溜めすぎているとの報告は近右衛門はしっていた。

そんな近右衛門ですら魔力放出が一年早まるとの話は信じられないようである。


「これに関しては超鈴音が過去に来たことが間接的ではあるが影響している。 歴史を変えればそれなりに影響が出るのは当然だ。 横島に関してはおかしな影響が出ないようにこちらで調整してるが、超鈴音にそこまでしろというのは無理だからな。 まあ今から対策を検討すれば問題はないだろう」

芦優太郎は周囲の凍り付く表情など気にせずに、一人だけ鍋に箸を伸ばすとたいした問題ではないと楽観的な様子で食事を続けていく。

正直超鈴音に関しては止めるのは難しくないが横島が超鈴音と敵対したくないというから現状では様子見になってるのだ。

残念ながら超鈴音の計画は全て土偶羅の監視下にあり成功する可能性は限りなく低い。


「やっぱ一度きちんと話してみるべきかなぁ」

横島と芦優太郎以外の誰もがそれは重大な問題ではないかと考えていたが、 横島は土偶羅が問題ないと言う以上は問題ないだろうと考え問題はいつ超と話すべきかと考え始める。


「本当に問題はないのですか?」

「彼女の歴史にはない異常気象はいくつか起こっているが歴史を変えている余波としては今のところは小さいし大筋では問題はない。 そもそも超鈴音一人が歴史を変えたところで出来ることは限られている」

しかし近右衛門達の誰もが超鈴音という歴史にはない存在の影響に素直に恐怖を感じていた。

もしかすると世界は滅茶苦茶になるのではと不安になった千鶴子はたまらず横島と芦優太郎に問いただすように確認するが、横島達からすると一人の人間が変えれる限界を理解しているしこの程度の変化ならばたいした問題にならないと理解している。


「すまないが時間と世界について少し簡単にでも教えてくれんか? そもそも世界は一つではないというのは前に横島君から聞いたが、ならば時間を超えて来た者には何ができて何が出来ないかわしらにはさっぱりわからん」

近右衛門は自分達が感じている恐怖は知らないことから来る無知故の恐怖だと理解しており、横島と芦優太郎に根本的な時間と世界の知識を尋ねていた。

知ればきちんとした判断が出来るだろうが知らないからと恐怖を感じたままで判断するのは危険だと近右衛門達年配者は特に理解している。


「そうだな。 説明してやってくれよ」

真剣な表情で教えを請う近右衛門達に横島はやはり説明を芦優太郎にそのまま丸投げした。

横島はどちらかと言えば鍋の様子の方が気になるらしく、先ほどから食事が止まった近右衛門達を見てそろそろシメにするべきかを悩んでいる。

ぶっちゃけお偉いさん相手に説明するのは回避したいのが横島の偽らざる本音だった。


「うむ、少し長くなるがいいのか? 今日はこのあと向こうの視察に行く予定だったが」

一方の芦優太郎は横島の考えなど百も承知であり説明するのは問題なかったが、実は今日は異空間アジトの視察をこのあと予定していたのだ。

しかし時間の流れと世界の関係なんかを説明するとどう考えても視察する心理的な余裕は無くなりそうだった。


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