平和な日常~冬~3

「大変っすね。 俺からも援助しましょうか?」

「気持ちは有りがたいけど、問題は根深いのよね。 そもそも関西呪術協会は財政基盤が脆弱過ぎるのよ。 表面上の体裁はともかく内情は火の車だもの。 それとお父様や私達は東西の魔法協会の統合を目指してるけど、関西が東西統合に賛成してる一番の理由はお金がないからよ。 私達であんまり財政基盤を安定させると今度は東西の統合に反対しそうだし……」

横島自身が意識して話を振ってる訳ではないが、穂乃香は少し愚痴っぽい口調で横島に関西呪術協会の現状を淡々と語り始める。

権力者は孤独だとも聞くが、正直なところ穂乃香や詠春も気軽に本音で愚痴をこぼせる相手があまり居ないのかもしれない。

そのまま横島は穂乃香の話を聞いていくが基本的には聞き役に徹するだけで、横島から特に目新しい提案や話をすることはなかった。

正直な話横島がパッと思い付く程度の策で解決しないのは横島もよく理解している。



「では始めるとしょうかの」

その後鍋の準備が出来る頃になると会合の参加者が集まって来るが、メンバーは先ほど述べた近衛家・雪広家・那波家の主要人物に横島と芦優太郎こと土偶羅の二人であった。

ぶっちゃけ横島は自分だけ場違いだろうとしみじみと感じてしまい、鍋の様子を見たり近右衛門達にお酒を注いだりと落ち着かない様子である。


「魔法協会の方はどうなんじゃ」

「当面はうごけんな。 わしらはともかく西を動かすには相応の時間がかかる。 将来に凝りを残さぬ為にも焦りは禁物じゃ」

さてこの日の会合は横島と芦優太郎の顔合わせが主な目的になっていた。

本来はもっと早く会合を開き魔法世界消滅に関する話し合いをする予定であったが、問題はそれ以前にいろいろあり横島側から提供された情報の扱いや活用などが先であった。

特に内部情報の類いは内部にすら軽々しく流せず近右衛門達が直に活用しなければならないので手間取っている。

正直な話、魔法世界絡みの対策はまだほとんど手付かずだった。


「個人的には超鈴音君の方が気になるね。 彼女の技術はこの時代にないものなんだろ? バタフライ効果みたいに後々で問題にならないのか?」

「今のところは麻帆良にとっては概ねプラスになっている。 最終的に彼女の計画は阻止せねばならないが、今度を考えるともう少しこちらの技術レベルを上げたいので超鈴音は当面は泳がせた方がこちらは動きやすい」

ただ実際に会合が始まると状況報告のあとは超鈴音に関する質問や疑問が次々と出てきてしまい、芦優太郎がそれに逐一答えていく流れになっている。

本来は横島に関する質問や疑問もそれぞれにあったのだが、危険性や緊急性の問題から後回しにしたようだ。


「しかし壮大な計画だね。 未来の為にたった一人過去を変えに来るなんて」

「まるでドラえもんだな。 物語として見る分には好きだけど実際に変えられる側になるとたまったもんじゃないよ」

一つの世界の終わりに関して未来から歴史を変えに来た超鈴音に会合の参加者達は嫌悪感を抱く様子はなく、どちらかと言えば呆れている感じである。

彼女を過去に送るまでにどれだけの血が流れ憎しみと希望を抱え込んでいるかと考えると、軽々しく嫌悪したり否定したりする気にはなれないらしい。


「確かにドラえもんもジャイ子ちゃんとしずかちゃんの立場になると微妙よね」

鍋をつつきながら何故かまるで物語の主人公のような超鈴音の話で盛り上がる一同だが、偶然にも同じ未来から過去を変えに来たアニメの話に移っていた。


「横島君どうかしたかい?」

「いや、なんかどっかで昔似たよなことを聞いた気がしただけですよ」

そんな中、先ほどから土偶羅に説明を任せて大人しかった横島の表情が微妙に変わると周囲は何か意見であるのかと注目するが、当の横島は女性陣が話していたジャイ子としずかちゃんの気持ちの話に何か記憶に引っかかるモノを感じただけである。

ただそれが今はもう繋がりのない未来からの干渉の件についてだったことは残念ながら思い出すことはなかった。





78/100ページ
スキ