平和な日常~冬~3

夜が明けて二五日のクリスマス当日は静かな朝だった。

今日からは冬休みなので早朝から街に居るのは部活動などで学校に行く生徒くらいである。

横島とタマモは仕込みやお土産作りが一段落すると庭に出ていくが、冬野菜の大根などを収穫した畑はまだ何も植えてなく春に向けて土作りをしてる最中だ。

今年一年の収穫は素人にしては出来すぎだったが、それは前のオーナー夫妻が昨年の冬場に土作りをきちんとしていたかららしい。

横島はタマモに畑も休みと栄養補給が必要なのだと説明して春に向けて準備をしている。



「さっき、さんたさんがきたんだよ。 みなかった?」

そして庭に住み着いている猫達であったが、寒い季節ながら元気であり横島お手製のネコハウスでは寒さ対策として使い古しの毛布を敷いていて猫達には好評のようだ。

日頃から散歩仲間である彼らにタマモは昨夜のパーティーやサンタクロースの話をしているが、やはり彼らは猫なので言葉は通じても話はあまり通じてないようではあるが。


「ちゃちゃまるさん、おはよー!」

そのまま横島は仕入れに出かけると入れ違うように茶々丸が庭を訪れていた。

タマモは茶々丸の姿を見ると嬉しそうに挨拶する。


「おはようございます。」

相変わらず固い口調の茶々丸だが表情は口調とは違い柔らかいもので、タマモを抱き抱えてあげたり猫達を抱き抱えてあげたりと猫好き&子煩悩っぷりを発揮している。


「なにかいいことあったの?」

そんなタマモだがこの日の茶々丸はいつもより機嫌がいいというか嬉しそうな表情に見えていた。

茶々丸のとこにもサンタクロースが来たのかと若干勘違いしたタマモが嬉しそうな表情の訳を聞くと、どうやら茶々丸の表情が明るい理由はエヴァが解放された件が理由らしい。

昨日の午前中に近右衛門達と横島で解放した後、エヴァはチャチャゼロと茶々丸を相手に祝杯を交わしたようである。


「あの呪いは心身共にマスターを縛り苦しめていましたから」

エヴァにとって呪いからの解放はナギとの過去から完全に決別というか、過去の思い出にする最後の一押しだった。

かつては愛情と憎しみが入り交じった複雑な心情だったが、それも結婚していた事実を隠されていた事とナギの現状を聞いたら起こる気も失せている。

そしてナギではない第三者によって解放されたことでエヴァは愛情も憎しみも喜びも悲しみも全てを過去のモノへとして、やがてそれはエヴァ自身の他の過去と同様に記憶の隅に残る程度になるだろう。


「よかったね!」

エヴァの十年にも及ぶ苦しみから解放を心底喜ぶ茶々丸にタマモは一言よかったねと告げてニッコリと笑顔を見せる。

それは一見すると何も理解してないただの子供の言葉と笑顔にしか見えないが、茶々丸はタマモが事情は知らなくても苦しむエヴァを本能的に感じて心配していたのを知っていた。


「タマモちゃんが来てから何処かが変わったのかも知れません。 本当にありがとうございました」

「おともだちだからとうぜんだよ」

この時茶々丸は漠然とだがタマモが麻帆良に来てから何かが変わったのかもしれないと感じていた。

無論それは理論的には否定せざるおえないほど確証も何もなく、茶々丸のAIで何度考えても何の結論も得られない程度のモノである。

茶々丸は自分の人工知能にバグでもあるのかと少し不安にならるが、タマモは茶々丸の言葉を否定せずに友達だから当然だと胸を張って受け止めていた。

それは人が予感とか直感と呼ぶものであり、彼女の魂が見出だした答えなのだということに茶々丸はまだ気付いてない。

最早人工知能で制御出来るような存在ではないのだが、それに気付いている横島やエヴァが何も伝えてないため本人は未だに自分を理解してなかった。


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