平和な日常~冬~3

「きょうはさんたさんがくるまでおきてる!!」

さてひと悶着あったタマモのお風呂だったがお風呂から上がったタマモは、ホカホカと身体中から湯気を立ち上らせながら髪も乾かさずにリビングに戻ってくると楽しそうに走り回っていた。

どうやらお風呂に入った影響で一時期に目が覚めたのだろう。


「起きててもいいから髪は乾かしましょうね」

いくら部屋を暖かくしてると言っても季節は冬であり、走り回るタマモが風邪を引いたらダメだからとさよは慌ててバスタオルでタマモの髪を乾かし始める。

日頃からお行儀がいいタマモだがそれでも時々は羽目を外すことがあるらしい。


「泊まっていく人は風呂に入ってもいいぞ。 噂に聞く女子寮の大浴場と違って普通の風呂だけどな」

タマモから少し遅れること横島もお風呂から上がってくるが、タマモがパジャマなのと対照的に横島は寝間着に着ているスウェットだった。

ちなみに今回横島はいよいよ来客用の布団を大量に購入していて、今までは雑魚寝だったが流石に冬に雑魚寝はマズイだろうと十組ほど購入している。

部屋に関しては二階だけでは足りないと言うか、せっかく三階に部屋が余ってるのにわざわざ同じ部屋に何人も詰め込む意味はなく三階の部屋も使えるようにはしていた。

尤も空き部屋は基本的に暖房器具もエアコンもないので、本当に寝るだけしか使えなかったが


「みんな相変わらず元気だな」

結局この日はあやかと千鶴と高畑と刀子以外は泊まることになり、他の少女達は一人ずつお風呂に入るが彼女達は着替えも持参済みであり準備万端にしてきたようである。

そんな最中で相変わらず騒ぐ少女達と振り回される横島をずっとにこやかに見ていた高畑は、若い少女達のエネルギーに見ているだけで圧倒されていたらしい。


「元気良すぎですよ」

「いや、このくらい元気な方がいいと思うよ。 明日菜君は覚えてないだろうが、僕や君がお世話になった人達はもっと元気だったよ。 みんなも知ってる詠春さんだってね」

賑やかなメンバーの中で少しだけ浮いてるような高畑であったが本人は結構楽しんでるらしく、みんな元気が良すぎると語る明日菜と近くで聞いている少女達に少しだけ昔の話を語り出す。

高畑と詠春の関係に関しては、以前に詠春が来た時に若い頃にNGOの活動をしていた時に知り合い行動を共にしていたと少女達には教えている。

まあ高畑も詠春もさほど深い話は当然ながらしなかったが、高畑のボランティアの原点が詠春達なのだということは伝わっていた。


「私、麻帆良に来る前のこと全然思い出せないんですよね」

「明日菜君はまだ小さかったからね」

この日の高畑も当たり障りのやない範囲で昔の話を語っていくが、最近高畑との関係が安定して来た明日菜や父の話に興味がある木乃香などが割と真剣に聞いている。

そんな少女達だったが、明日菜は最近麻帆良に来る前の記憶がないことが少しだけ気になり始めていた。

以前は昔のことだからとあまり気にしなかったが、最近はタマモと横島を見てる影響からか気になるのだ。

自分の産みの親や育ての親と言える高畑と高畑が語る昔の仲間についてどんな人達だったのかとか、どんな想いで自分を育てたのかとが知りたかった。

正直タマモと横島を見ていると、将来タマモが成長した時に何一つ幼い頃の記憶がないと言われると明日菜自身も寂しいし横島もきっと寂しい想いをするだろうと思うと自身の記憶がないことが気になってしかたないのだ。

流石に全てを記憶して思い出せることなどは不可能だろうが、明日菜の場合は名前や顔すら思い出せないのだからショックを感じるのは仕方ないことだろう。

高畑と向き合い自身の過去を知りたいと考え始めてる明日菜は本来の歴史よりも明らかに人間として成長している。

そして高畑はそんな明日菜にいつどこまで過去を教えるかと悩みはするが、それでも明日菜が自分の過去と向き合おうとする姿が嬉しく感じていた。

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