平和な日常~冬~3

「まったく……」

結局タマモが横島と一緒にお風呂に向かうと刀子はなんとも言えない表情で深いため息をつく。

多少冷静になれば横島は完全に冗談だったとすぐに気付くが、本気でない分だけ余計にタチが悪い。

まあ刀子も横島にその手の気遣いなど不可能であることは十分に理解はしているのだが、刀子としてはやはり周りが生徒であることでどうしても教師としての仮面を完全には脱ぐことは出来なかった。

正直この辺りの微妙な心境は今も変わらずあって、いい年した大人が中学生の子供達に混じって一人の男性を相手に恋愛をすることまで完全に受け入れた訳ではない。

それに以前にも説明したが刀子は主家の娘である木乃香の存在もあって、恋人や妻になることを諦めようと考えている。

百歩譲って仮に横島が刀子を選んでそれを木乃香が百パーセント祝福してくれても、周りは刀子が主家の娘から恋人を寝取ったと見るだろう。

過去に一度東西の枠を越えた結婚をして離婚してるだけに、刀子には後がないのだ。

加えて東西の魔法協会が微妙な時期である今そんな問題を起こせば何がどこまで影響するか刀子には想像もつかない。

とまあいろいろな感情や考えが頭の中を駆け巡る刀子だが、そこまで現実的に考えても横島から離れるつもりがない時点で相変わらず重症だったが。


(貴女達にはある時間が私にはない。 悲しいけど世の中平等じゃないのよね)

出きることならば自分も十年とは言わなくてもバツイチになる前に会いたかったと刀子は騒ぐ少女達を見てしみじみと思ってしまう。

そして理性も世間体も何もかも捨てて横島を自分だけのモノにしたいと考えてしまう身勝手な自分も刀子の中には確実に存在した。


(完全に嫉妬よね…)

思えば学園主催のクリスマスパーティーの時から刀子の中には確実に少女達をに嫉妬する自分がいる。

特に横島と少女達が幸せそうに踊るダンスパーティーをただ見ているしか出来なかった時から嫉妬をするようになっていた。

実際彼女自身が中学生の今ならばまだ自分にも有利な面もあり、今のうちに既成事実を築き上げていけばと考えなくもない。


「横島さんも相変わらずですね」

一方の少女達はそんな刀子の想いなど知るはずもなく楽しげにおしゃべりをしていたが、夕映や千鶴などの良識ある少女はデリカシーのない横島になんとも言えない様子であった。

端から見て刀子が横島に気があるのは疑いようがない事実であり、あえて気付いてない人物をあげるとすれば恋愛をまだ理解出来てないタマモと横島本人くらいだろう。


(葛葉先生は今のところ積極的じゃないけど…)

そして刀子を横島の側に引き込むと同時に抜け駆けしないように釘を刺した張本人でもある美砂だが、刀子の様子からもう楽観視できる状況ではないなと感じていた。

彼女の場合は魔法関係を知らないので余計に刀子が自分たちよりも進む危機感を持ち始めている。

正直蟻の一突きでも今の楽しい関係が全て壊れそうで怖かった。

愛情と友情と今の不思議な関係をどうにか両立出来ないものかと美砂は本気で悩み始めることになる。





68/100ページ
スキ