平和な日常~春~

横島のマジックに続き2-Aの生徒達もそれぞれに得意な事を披露したりと賑やかなパーティーは長時間続いたが、流石に夜10時を過ぎるとあやかがそろそろ終了にしようと仕切りみんな帰っていく

木乃香達は残って後片付けを手伝うと言ったが、夜が遅い事を理由に横島が断った

そんな横島一人になった店内は、先程までの賑やかな時間が嘘のように静まり返っている


「元気が有り余ってるな~ 若いって羨ましいわ」

静かになった店内で横島は、何故か後片付けもせずに残り物を肴に酒を飲んでいた

いつ以来か分からないほど久しぶりの馬鹿騒ぎは、昔が懐かしくなるほど楽しかったのだ

しかしその楽しさに横島は、思わず過ぎ去りし過去を思い出してしまう


「世界が破滅しても一人だけ生き残るか……」

ふと自分は世界が破滅しても生き残ると言い切ったかつての上司を思い出した横島は、思わず苦笑いを浮かべている

まさか自分がそんな状況を経験するとは思いもしなかったし、横島自身は一人で生き残りたいなど思った事もないのだから


「残されるのも楽じゃないっすよ、美神さん」

一人だけ生き残ったと言えばそうなのだが、横島としては自分一人だけが取り残された気がしていた

麻帆良での新しい生活に不満などないし毎日充実しているが、ふとした瞬間自分は本当にこれでいいのかと疑問も感じてしまう


元々横島の精神は決して強い方ではないのだ

仲間達の魂を継承して力や経験を得ていたが、横島自身の精神が強化された訳ではない

無我夢中で戦っていた時は考えなかったことも、平和な日々が続くと考えてしまうことがある

多くの犠牲と悲劇の上に生き残ってしまった自分が幸せになっていいのかと……



「本当に後片付けしてないじゃないの」

記憶の渦に埋没しかけた横島に聞こえてきたのは明日菜の声だった


「夕映の予想通りやな~」

「凄いね夕映」

「やはりまだ後片付けしてませんでしたね。 これだけ大量に洗い物があると確かに面倒になりますからね」

明日菜に続いて木乃香とのどかと夕映の声も聞こえるが、どうやら夕映は横島が大量の後片付けを前に面倒になってなかなか片付けに入らないと予想していたようである


「あれ、忘れ物か?」

「手伝いに来たんよ。 一人だと大変やし」

「お酒は後片付けをしてからにして下さい」

戻って来た木乃香達に横島は驚き声をかけるが、彼女達は手伝いに来たからと告げると横島の返事を待たずして片付けを始めていく

テキパキと手分けして後片付けをしていく木乃香達を横島は半ば呆然と見ていたが、思わず意味がわからぬまま笑ってしまう


(難しいことを考えるのはらしくないか……)

幸せな時間と自身の過去などを考え複雑な心境だった横島だが、わざわざ戻って来て後片付けを手伝ってくれる木乃香達に励まされた気がした

そのまま横島は彼女達に促されるまま後片付けを始めることになる


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