平和な日常~冬~3

「やれやれ、幼子に助けられるとはな」

さて横島達と分かれた近右衛門と穂乃香は魔法協会本部に戻っていたが、近右衛門はエヴァの解放が成功したことに心底ホッとしつつも予想以上に円満に解決した原因について考えていた。


「私が噂に聞いたエヴァンジェリンの様子とはだいぶ違いましたものね。 不思議な子です」

約十年という月日がエヴァにとってどれだけのモノだったのかは本人にしか分からないだろうが、ズルズルと真相を打ち明けられずに十年近くも過ぎて今更すべてを水に流して欲しいと言うには遅すぎると近右衛門達はずっと悩んでいた。

結果的に見ると上手く行ったが、仮に解放されたエヴァが心変わりして近右衛門達に牙を剥く可能性も決して無かった訳ではない。

近右衛門も穂乃香も逆に自分達がエヴァの立場だったら、あれほど笑って許せるかと思うと許せない気もする。


実のところ近右衛門は少し前から気付いていたが、ここ最近のエヴァは今までにないほど機嫌がいい。

何がエヴァを変えたのか恨みからは何も生まれないなどという綺麗事では済まないほどの月日が流れたはずなのだが、そんなエヴァの月日をあっさりと過去の物とした原因は明らかにタマモの存在だった。


「妖怪の子なのは確かじゃが、詳しくはワシも聞いとらんから知らん。 そもそもあの気難しいエヴァにどうして懐いたのやら」

横島が何処からか保護して来た妖怪の子であるタマモが、自分達の業を洗い流してくれたという事実には近右衛門もただただ驚くばかりである。

普通の子供ならば近寄り難い様子のエヴァに懐くのはなかなかないし、仮に懐いてもエヴァは拒否をするだろう。

どうやってタマモはエヴァとあれほど仲良くなったのか近右衛門は検討も付かなかった。


「横島君の影響も大きいんでしょうね。 彼は吸血鬼にも魔王にも全く恐怖も畏怖もないもの。 あの様子を見てると魔王の遺産を受け継いだって話が本当なんだって感じるわ」

タマモにとってはエヴァもチャチャゼロも友達であり、恐怖や畏怖は全くない。

その価値観の本流が横島なのは穂乃香も近右衛門も感じていた。

まあ近右衛門からすれば横島が普通じゃないのは今更ではあるが、そもそも横島はどちらかと言えば吸血鬼や魔王などよりも人間を恐れている。


「神話に登場するような神や悪魔が普通に存在しとった世界らしいからのう。 わしらとは価値観が違うのじゃろう」

横島の生まれた世界の人間はみんなあんな感じなのかと少し気になる近右衛門だが、恐らく同じような人間は何人もいなかっただろうとは思っていた。


「それにしてもアルビレオには困ったものね」

「うむ……」

そしてエヴァの件に一区切りがつくと穂乃香と近右衛門を悩ませるのはアルのことだった。

火事場で火遊びするような性格なのは今更であるが、この先を考えると早々に麻帆良から出て行って欲しいのが本音である。


「ナギの扱いを含めてよく考える必要があるわね」

アルが麻帆良に居るのはなんと言ってもナギが麻帆良に封印されてるからであり、エヴァの一件が片付いた近右衛門が一番頭を悩ませるのはナギとアルの扱いだった。

実のところ横島ならばナギを解放出来ると近右衛門と穂乃香は密かに聞いていたが、問題はそれほど単純ではない。

そもそもナギは過去に魔法世界を救う為に地球側を巻き込もうとしていたこともあり、安易に解放すると何もかもが目茶苦茶になる可能性があった。

二十年前のように自分の好きなようにしておきながら、後始末もしないで終わられたのではたまったもんじゃない。

心情的には解放してやりたい気もするが、魔法世界の連中の尻拭いを自分達がするのは御免である。

とりあえずアルに関しては余計なことを企まないように警戒していくことにした。



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