鶴子に声をかけられた横島はカウンター席から鶴子達の元に近寄っていくが、刀子は少し不安げな表情であるし刹那は鶴子と横島の双方を見つめ表情を無言のまま変えなかった。


「あんさん甘いわ」

そして鶴子は自分の意見を否定した横島を少し興味深そうに見つめていたが、軽くため息をつくとほんの僅かだが落胆するような表情も見せて甘いと一言だけ口にする。

そもそも鶴子とて好きで厳しいことを言ってる訳ではない。

木乃香や刹那の未来がそれだけ危うい危険があるからこそ厳しいことを言ったのだ。

確かに横島の言葉は理想ではあるが、そんな甘い理想で守れるほど魔法協会の未来も木乃香や刹那の未来も優しくはないと考えている。


「自分の言葉に最低限の責任は持ってるつもりですけどね」

「たいした自信やないの。　まあ、口だけではないみたいやけど」

一方鶴子に甘いと言われた横島は苦笑いを浮かべつつも自分の言葉には責任を持つと言い切った。

その言葉の意味を瞬時に理解した鶴子は更に横島を見極めるように、まるで周りで見ている者すらも射抜くような厳しい視線を横島に向ける。

正直滅多に見せないほど厳しい視線の鶴子に刀子と刹那はただ固まるしか出来なかった。

剣の修行でも厳しいことはあるが、それとは次元の違う厳しさなのだ。


「あくまでも俺の個人的な意見っすよ。　俺は神鳴流のようなエリートとは無縁ですからね」

しばし睨みつけられたままだった横島は困ったように冷や汗を流すと、言い訳するように個人的な意見だと口にする。

そもそも横島は神鳴流や刹那のことに口出しするつもりはないだけに、何故自分が睨まれるのかと思うと多少理不尽な心境にもなる。

ぶっちゃけ鶴子が値踏みしてるのは理解しているが、されてる側としてはあまり気持ちがいいものではない。


「まだまだ若いな。　あんさんは」

結局鶴子は射抜くような視線とプレッシャーを止めるとため息混じりに横島に返事を返すが、何とも言えないというのが本音のようだ。

横島には人を育てるのに必要な厳しさが欠けているとは思うが、おそらく横島は厳しくしなくてもやっていけるのだろうと見抜いている。

それはいいことか悪いことかと一概には言えないことだが、神鳴流という伝統ある集団の中で育って来た鶴子からするとやはり甘いというか未熟にも見える。


「いや～、気持ちはまだまだ十代ですから」

「横島君、分かってるだろうけど褒められてないわよ」

その後鶴子が矛を納めたことで横島も刀子も刹那もホッと一息つくが、若いと言われた横島は満更でもなさげな様子で喜んでいた。

刹那はそんな横島に少し呆れたような視線を向けるが、刀子は横島が褒められてないことを分かっていて喜んでいると感じる。

元々自分の評価が上がるのを嫌がる横島なだけに、鶴子に関しても出来るだけ評価を低くしたいのだろうと見抜いていた。

鶴子は神鳴流での立場もあり真っ向からぶつかり受け止めることを好むが、横島は捻くれているので真っ向からぶつかるよりは後ろに向かって全力で逃げ出すタイプなのだ。


「まあ、近右衛門様と刀子もおるし大丈夫やろ」

そのままこの夜は二度と厳しいことを口にしなかった鶴子だが、横島という男を理解するには一筋縄ではいかないと改めて理解していた。

もう少し追い詰めて横島の本音を暴きたいと思わなくもないが、麻帆良には近右衛門や刀子が居るので大丈夫かと思う。

多少扱いが面倒な男だが経験豊かな近右衛門ならば問題はないだろうし、生真面目さが裏目に出ることの多い刀子にはちょうどいい経験だろう。

まああえて不安要素を上げるとすれば恋愛問題だが、鶴子はそこまで面倒見きれないのが現状だった。