平和な日常~冬~3

「そうですか……」

「こういうことを言うのは不謹慎やけど、近右衛門様や詠春様に万が一のことがあればお嬢様は担がれる可能性が高いんやわ」

少し話が逸れたが木乃香への情報開示が時間の問題だと聞いた刹那は苦悩するようにため息をつく。

鶴子はそんな刹那に少し声を小さくして万が一の時の可能性にについて語るが、その内容に刹那は凍りついたように固まってしまう。


「先のことは誰にも解らないものね」

それはあまりに不謹慎というか危険な言葉であった。

まるで何か良からぬことを企む輩でも居るのかと邪推したくなるほど危険な言葉だが、固まる刹那と対称的に刀子はそれを自然な様子で受け止める。

現状では近右衛門も詠春も元気だが、人の寿命など誰にも分からないし特に近右衛門は年齢的な問題からこの先十年も二十年も現役でいる訳ではない。

仮に近衛家が詠春の世代で魔法協会から身を引く選択肢も無くはないが、木乃香が何も知らなければ知らないほど軽い神輿として担がれる可能性も高くなる。

まあ実際にはここに横島がどう動くかでまた状況ががらりと変わるが、このままでは魔法協会の根幹を揺るがす問題である魔法世界の消失は木乃香の世代で起こることがほぼ確定なのだ。

その混乱は世界に広がるだろうし、お飾りのトップでは決して乗り越えられないだろう。

鶴子も刀子も木乃香の幸せを願う気持ちは当然あるが、同時にもし仮に木乃香が次世代の魔法協会を継ぐならばそれに相応しい人物になって欲しかった。


「刹那、黙ってても平和と幸せが守られるなんて思ったらあかんえ」

そのまま苦悩し決断できない刹那に鶴子は、まるで傷口に塩を塗り込むほどキツイ口調で厳しい言葉をかける。

残念ながら甘い理想で平和を守り幸せになれるほど世界は優しくはない。

鶴子自身もこの先状況次第では現役に復帰して戦わねばならないとすでに覚悟を決めているし、刹那にもそんな覚悟を決めて欲しいと願ってるようだった。


「なあ、あんさんもそう思うやろ?」

そして鶴子は返事の帰ってこない刹那の代わりに、何故か他に客の居ない店内のカウンター席で雑誌を読む横島に声をかける。

先程までは厨房で何やら仕事をしていたが暇になったらしく、少し前からカウンター席で一人雑誌を読んで居たのだ。


「青山先輩!?」

「協力してくれるんやから話くらいはした方がええやろ」

重苦しい微妙なタイミングで突然横島に話を振った鶴子に刀子は抗議するような声を上げるが、鶴子は横島も協力する以上は別に話をする分には構わないだろうと押し切る。

そもそも鶴子自身は時期に京都に帰る身であり、今のうちにもう少し横島の人となりを知りたいと思っていたのだ。


「中学生の子にそんな覚悟を背負わせるのは、俺は好きじゃないっすよ」

「あんさんも時間がないのは分かってるはずやけど」

「時間は作るものじゃないっすか?」

一方の横島はまさか突然自分に話が振られるとは思わず驚いていたが、正直鶴子の意見は少し厳しいのではと聞いていた。

世の中も知らない中学生の子に求める覚悟ではないと横島は思う。

まあ気持ちは分からなくもないが。



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