平和な日常~冬~3

「闇の福音を解放するのですか?」

一方お昼休みも終わり午後の授業が始まるが、受け持ちの授業がなかった刀子と高畑は近右衛門に呼ばれて学園長室に居た。

共に魔法協会屈指の実力者である二人だが、以前にも説明した通り役割の違いからあまり一緒に仕事をする機会はない。

そんな二人が同時に呼ばれたことで刀子と高畑は共に何事かと驚いていたが、近右衛門から語られたのは近右衛門と穂乃香と横島の手により極秘理のうちにエヴァを解放するとの情報だった。


「うむ、刀子君は知らんじゃろうが実はエヴァは元々はナギから預かっていただけなんじゃよ。 本来は頃合いを見計らってナギが麻帆良に来て解放するはずだったんじゃ」

魔王の異名すら持つエヴァの解放自体に驚く刀子に近右衛門は一般的にはあまり知られてない事情を説明するが、驚いているのは高畑も同じでこちらは今まで不可能だと言われていたエヴァの解放の目処がたったことに驚いている。


「彼女は訳ありだったのですか」

淡々とエヴァを預かった事情を説明する近右衛門に刀子はこれも横島が協力した影響かと考えを巡らせるが、元々エヴァの存在は関東魔法協会内でも何か訳ありではとの噂があったのだ。

一般的にエヴァはナギが封じたとされているが、本人は特に制限される訳でもなく自由に生活している。

麻帆良でも魔法世界出身者などはエヴァを恐れる者が多く、殺すなり封印するなりするべきだと言う者が居るほどだった。

ただ刀子のように魔法世界との関係がない者なんかは、恐れ警戒はするが本当は何か訳ありではと考える者も決して少なくない。

特に刀子は横島から歴史の真実を聞いていただけに、近右衛門の話からそれ以上に裏事情まで察してしまう。


「解放はいいのですが、今解放すれば向こうを刺激するのでは?」

「このままでは誰も幸せにならんからのう。 それに当面は隠すことにしている。 エヴァもそれは了解済みじゃ」

一方の高畑はエヴァの解放を素直に喜ぶが、同時にその影響を心配する。

ナギの残した問題であるエヴァの解放は高畑も願っていたが、現在関東魔法協会とメガロの関係はお世辞にも良くはない。

秘密結社完全なる世界復活の情報などでメガロが神経質になってる時期なだけに、下手をすれば火に油を注ぐようなものなのは考えなくてもわかる。

ただ近右衛門とすれば、このどさくさに紛れて解放しなければ余計に難しくなると考えていた。

ちなみに横島には先日説明したが、答えはあっさりとしたもので何なら横島が一人でも呪いは解けるからと言う程度だった。

近右衛門としては横島の過去や秘密に関してエヴァに隠すべきか予め言うべきか少々悩んでおり、現状ではエヴァの考えた解呪方法でまずはやるべきだと考えている。

敵には回したくないが完全な味方になる訳でもないエヴァの扱いは木乃香達との関係が良好な横島以上に難しく、出来るだけ穏便に済ませたいのが本音だった。

現実的に考えてエヴァが横島の秘密を知っても問題になるとは思えないが、基本的に秘密とは知る存在が少ない方がいいのは当たり前なのだ。

とりあえずエヴァから何かを聞かれるまでは自分は黙っていようと近右衛門は考えており、万が一エヴァに聞かれて秘密を話す場合でも横島自身で話して欲しいと考えている。

まあエヴァは超鈴音のように世界をどうこうしようとするタイプではないので、無理に隠して不信を抱かれるよりは話した方がいいとは思うが。

ともかく刀子と高畑には立場上エヴァの解放を知らせぬ訳にいかないし、他にも解放前に根回しせねばならない者がそれなりに存在した。

近右衛門はそれらの人達に全て自分が説明して納得して貰っていたのである。



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