平和な日常~冬~3

「まあそれはこちらで片付けるとして、本当に困ってるのは超君の件じゃな」

そのまま話は続くが少し愚痴っぽくなったことで話題を変えた近右衛門は、本題とも言うべき案件について話を持ち出す。

内部の問題はまだ扱いが難しくとも着々と進め始めているが、近右衛門が迂闊に手を出せずに悩んでいるのは最近土偶羅から提供された超鈴音の報告書である。

未来人でスプリングフィールド一族の子孫だと言われても冗談だろうと疑いたくなるというか、冗談であって欲しいと願いたくなるような報告書だった。


「時を越えるのは簡単じゃないですけど不可能でもないんっすよ。 ただあの年齢でたった一人未来から来た精神力は末恐ろしいとしか思えませんけど」

「問題の根源が一緒であることを喜べばいいのやら悲しめばいいのやら」

たった一人で未来を救う為に過去に来たという超鈴音は、まるで物語の主人公のようだと近右衛門は思う。

ただ目的の原因がまたもや魔法世界であることには、本当に頭を抱えるしかなかったが。

正直魔法世界の問題は魔法世界でやってくれと言うのが近右衛門の本音である。


「残念ながらこの過去を変えても彼女が救いたい世界は変わらないですしね。 俺としてはその辺りを切り口に交渉して味方に引き込みたいんですけど」

「彼女に秘密を明かすのは少し危険ではないかね?」

頭の痛い問題である超鈴音だが、現時点では特に魔法協会に被害を及ぼすような行動はとってない。

実は近右衛門の悩みもその辺りにあり、今のところ超鈴音に対して動く理由が全くないのだ。

土偶羅の報告書はあるし近右衛門はそれを信じているが、問題なのは流石の土偶羅もこの世界の現行技術において超鈴音の正体を暴く証拠は用意出来てなかった。

横島は自身の正体を明かして味方に引き込みたいと考えているが、近右衛門は横島の正体を第三者に明かすのはリスクが高いと考えるし土偶羅の報告書に関してもとてもじゃないが超鈴音に見せれる物ではない。

加えて近右衛門が特に問題視しているのは、超鈴音の時間移動がタイムマシンを使った物だという点にある。

仮に個人の能力や魔法ならば使える人間が限られてるからまだいいが、タイムマシンという道具で時間移動が出来ることは極論を言えば使える人間がいくらでも増やせる可能性があるということだ

第二第三の超鈴音が現れても不思議ではないし、未来から歴史を変える為にサイボーグやら軍隊や警察なんかがこの時代に来るなんてどこぞの映画や漫画のような事件が本当に起きるかも知れない。


「彼女のタイムマシンは、さほど危険性はないと思いますけど」

「現時点ではということじゃろう。 技術とは積み重ねて向上するものであり超君ならば尚更な。 必要以上の情報や秘密を教えるのは危険過ぎる」

横島自身はかつて二度ほど過去に行ったし超鈴音が何をしようが土偶羅なら対処出来ると思うが、近右衛門はいずれ未来に帰る可能性のある超鈴音に必要以上に情報や秘密を教えるのは反対のようだ。

まあ味方に引き込みたいのは近右衛門も同じだが、横島ほど安易に考えてはないらしい。

この点に関しては近右衛門が土偶羅に出来ることを理解してない部分が多いことが影響しているが、それを抜いても近右衛門の本音は極力横島の秘匿する力は使いたくないとのことにある。

横島本人は難しいことを考えるのを土偶羅に丸投げしていて考えてないが、近右衛門は横島の持つ力は禁断の力に近いのではと考えていた。

孫娘達の横島への想いを間近で見ている立場としては、孫娘達の幸せを壊す可能性は出来るだけ避けたい。

結局超鈴音への対応は当面は監視に留めることになる。



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