さて時間が午後になると、横島の店にはあやかと千鶴が訪れていた。

話題はやはり昨日のパーティー関連になるが、二人は横島がきちんと挨拶周りを済ませたことに心底ホッとしている。


「俺だってやる時はやるぞ」

横島本人は心配せずともやる時はやると自慢げに胸を張るが、あやか達からすると相変わらず調子がいいなとしか感じない。

無論横島がやる時はやるのは彼女達は百も承知で、問題はいかにしてやる時にまで横島を持っていくかであった。

言葉の揚げ足を取るようだが、横島はやらない時の方が圧倒的に多いのだから。


「そういえばお姉様にも会ったようですが……」

「あやかちゃんの姉ちゃんか？　あの人も俺を過大評価してたなぁ。　初対面で過大評価なんかされると後は落ちるだけになっちまうのに」

まあ全体的に見て昨日の横島はよく頑張ったとは思うあやかだが、ふと姉であるさやかの話題を横島にふる。

日頃から姉とは仲良いあやかだが自然と比べられる機会も多く、横島がどんな反応を示すか興味があった。


「相変わらず自分の評価を下げたいんですね」

ただ横島はさやかの印象よりは、自身が過大評価されたことを困った様子で愚痴る。

そんないつもながらにどうしても自分の評価を下げたがる横島に、あやかは呆れたようにため息をつく。

正直横島のそんなところは悪い癖だともあやかは考えている。

謙遜や謙虚ならば美徳と言えるが、横島の本心は気楽なのが一番で期待からは逃げたいだけなのだから。


「喫茶店の店主に過大な期待されてもな。　俺は逃げるぞ」

「逃げないで下さい！！」

評価について語るあやかに横島は喫茶店の店主には不釣り合いな評価だと言い切り当然のように逃げると告げるが、あやかと千鶴どころか近くで話を聞いていた明日菜とのどかも疲れたような表情になる。


「にげるの？」

「あー、今はお仕事中だから鬼ごっこはまたね」

一方横島の隣ではタマモがクレヨンで昨日のパーティーの絵を書いていたが、横島の逃げると言う言葉に反応して周りをキョロキョロと見渡す。

一応横島達の話を聞いてはいたが、タマモには理解出来ない内容でありタマモとしては逃げるとの言葉で鬼ごっこでも始めるのかと思ったらしい。

明日菜はそんなタマモの様子に少し苦笑いしつつ鬼ごっこはまたねと言い聞かせていく。


「おっ、店閉めてみんなで鬼ごっこでもするか？」

「ダメですよ！」

そんな少し鬼ごっこを期待するようなタマモに横島はニヤリと笑みを浮かべて店を閉めて遊ぶかと割と本気で口走るが、当然ながら明日菜に止められて実現しなかった。


「お姉様と横島さんの組み合わせはどうなるか想像出来ませんわね」

「なかなか居ないタイプですものね」

そして話が脱線して遊びの話に変わった横島達をあやかと千鶴はため息混じりに見つめていた。

横島という存在は良くも悪くも個性が強い傾向にあり、それはあやかや千鶴の周りには居なかったタイプの人間である。

あやかとしては自分の家族と横島が今後どう関わるのか、少し不安げな様子であった。