お昼の少し前になると店にはいつものスーツではなく、結構ラフな服装の高畑が訪れていた。


「休みですか？　珍しいっすね」

高畑が日中に店に来ること自体珍しいことだが、それ以上にスーツでない服装で来るのは初めてであり少し早い昼食にと食事を頼む。

その様子は以前とは違いやはり心理的に余裕があるようだが、同時に若干暇を持て余してるようにも見える。


「僕もたまには休む日があるさ」

休みが珍しいと語る横島の言葉に明日菜やのどかは同意見だと言わんばかりに珍しそうに高畑を見るが、高畑を良く知る明日菜でさえ高畑が休日にぶらぶらとしていたなど記憶にない。

幼い頃は休日には掃除や洗濯に買い物などをしたら終わっていたし、家に仕事を持ち帰ることも多かったので暇そうな高畑は本当に珍しかった。


「高畑先生も人間ですから休みは必要ですよ。　今日は一日ダラダラと過ごしてみたらどうっすか？」

「横島さんは店開けたままでよく休んでるもんね」

受け持ちの生徒達の珍しそうな視線に高畑は少し反応に困ったような苦笑いを浮かべるが、横島は高畑には休みが必要だと割と真顔で言い切る。

しかし明日菜はまるで横島の言葉の裏側を見抜くように、日頃から店を開けたままでよく休んでると突っ込む。

その言葉に店内の客達が笑ってしまい、比較的静かだった店内の空気が一気に緩んでしまう。


「俺はいいんだよ。　なんたって店主だからな」

「うわ～、開き直った」

明日菜の突っ込みに横島は当然だと言わんばかりに開き直ってしまうが、それを笑う者は居ても批判するような人は居なかった。

実際横島は注文が入れば仕事をするし、仕事に手を抜いてる訳ではない。

明日菜としても本音は高畑には横島の十分の一でもいいから休む余裕を持ってほしいのだろう。

実際最近の明日菜は高畑と多少なりとも向き合えてる影響で、高畑に対しては愛情を求めるよりも心配する感情が増えていた。

横島の日常生活の良し悪しは別にして、横島と出会って以降の明日菜はその影響を多大に受けている。

正直高畑にしても近右衛門にしても雪広家の人々にしても、明日菜の身近な大人達は働き過ぎだというような大人ばかりであった。

明日菜がそれに気付いたのは横島に出会って以降なのて割と最近である。

高畑にももう少し横島のように日常を楽しんでほしいと、明日菜は最近になって感じていた。


「そうだね。　それもいいかもしれない。　今日はゆっくりしてみようかと思う」

どこまでも自然体で笑う明日菜と横島達を見た高畑は、今日一日は本当に横島の言うままに過ごしてみようかと口にする。

目の前の光景はいつもと同じくごくごく普通の賑やかな光景だが、それは何故か高畑に忘れかけていたかつての仲間達との楽しかった日々を思い起こさせていた。

決して穏やかなでも楽な日々ではなかったが、あの頃が高畑にとって一番楽しかったのだ。

自分はいつかかつての仲間達に追いつき越えたいと思う気持ちは今も変わらないが、同時にもしナギが生きていれば明日菜や横島と一緒に馬鹿騒ぎした気がしてならない。

今日は一日何も考えず休んでみよう。

高畑はそう決めると楽しそうな横島や明日菜達を見て笑みを浮かべていた。