平和な日常~冬~3

学園主催のクリスマスパーティーの翌日は日曜だった。

本当に朝まで二次会だと騒いだ少女達の影響で、横島の仕込みが遅くなり店を開けたのは九時過ぎと珍しく遅い開店である。

この日のバイトは明日菜とのどかが居るが、明日菜は新聞配達の為に昨夜は早めに帰って寝ておりのどかは横島の家で朝方仮眠を取っていた。

唯一徹夜した横島は少しけだるい様子だが、日頃から午前中はこんな感じの日もたまにある。


「昨日の奴、今頃どんな顔してるだろうな」

「昨日? ああなんとかって酔っ払いの先輩ね」

「斉木先輩ですか?」

時間的にまだ客は少なく横島はカウンター席で明日菜達にさよとタマモと一緒に昨日の話をしていたが、ふと横島に絡んで来た斉木が今日はどんな顔をしてるかと考えると少し悪人顔で笑ってしまう。

直接見てなかった明日菜とさよは名前すら覚えてなく、納涼祭の実行委員として以前から斉木を知っていたのどかに名前を教えられるが、それでも明日菜とさよは名前を覚えるほどの興味はない様子だ。


「懲りない人だって大学部の皆さんは言ってましたけど」

「麻帆良の財界の人間が集まるあの場で、あやかちゃんに暴言を吐いたのはまずかったな。 俺の悪口だけで辞めとけばいいものを。 今後あいつは苦労するかもな」

お騒がせ大学生である斉木は今までは単に同じ学園の生徒に嫌われてるだけだからよかったが、昨日の件は斉木の今後に重大な影響を与えるのではと横島は口にする。

その言葉の意味をなんとなく理解するのどかは何とも言えない表情を見せるが、タマモはもちろんのこと明日菜とさよは意味を全く理解出来ないらしい。


「公衆の面前で自分の娘や孫が暴言を吐かれたら親や祖父はとう思う? まあ雪広会長や社長は表向き何も言わんだろうが、下の者や取引先は絶対に気にするぞ。 間違いなくあいつは麻帆良では成功しないよ」

意味が分からない様子の明日菜とさよに横島は悪巧みするように説明するが、その内容に明日菜達はやはり何とも言えない表情になる。

特に明日菜は雪広家の人間を良く知るだけに、横島の言うことが少し大袈裟にも感じるようだ。

ただ横島は雪広グループがそれほど甘くないと考えている。

少なくとも斉木は雪広グループを中核とする麻帆良派には一生縁がないと思う。


「成功と言うなら斉木先輩はすでに成功しているのでは?」

「株式投資がそう簡単に毎年成功するなら誰も苦労はしないって。 あいつは時期にボロが出るよ」

加えて斉木のこの先の人生は決して順風満帆ではないと言い切る横島に、のどかは斉木がすでに成功しているのではと語るが横島はそれもいつまでも続かないと語る。

正直明日菜達には横島の語ることがどこまで現実的な話か理解出来ない部分があるが、同時に横島が言い切ると妙に説得力があるなと感じた。

事実斉木の成功は大学四年間がピークであり、この後は投資の失敗や詐欺の被害にあい彼の人生は転落していくことになる。

そしてパーティーで雪広家の娘に暴言を吐いた愚か者の話と名前は麻帆良派のみならず日本の主要な財界人の耳にまで入り、数年後に投資家として危機に陥った彼に手を差し延べる人間は皆無だった。

結果として彼は二十代で成功とどん底の両極端な経験を積むが、二度と彼が成功者として浮上することはなく生涯を終えることになる。

まあ横島達やあやかが斉木に関わるのは今回が最初で最後なので、彼の転落を横島達が知ることはないのだが。



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