平和な日常~冬~3

さて楽しそうにダンスを踊る人々の中で踊る横島と踊る明日菜だが、初めての経験に緊張気味なのは当然だが自分では意外と落ち着いてるなと感じる。

もう最後だからか周りを見渡せば最早ダンスと言えないほど自由に踊ってる人も居るほど、みんなそれぞれ自由に楽しんでいた。

そのせいかダンスを全く練習してない自分でも気にならないのが大きいのかもしれない。


(全く、この人は……)

そんな明日菜だが密着した横島と目が合うと思わず逸らしてしまう。

明日菜自身は横島に特別な感情を抱いてるつもりは全くない。

いい友人か年上のお兄さんといった感じで考えているが、流石に身体が触れ合う距離に居て意識しない訳ではないらしい。


(そういえば最初から変な人だったのよね)

無言のまま踊る横島を間近で感じた明日菜は、ふと横島に出会った時のことを思い出す。

箱入り娘のように若干世間に疎い感じのある木乃香は占いが好きで、時々新しい占い師なんかを見つけては会いに行くことがあった。

明日菜はそれに付き合わされることがよくあったが、横島は今までのどの占い師よりも占い師らしくないのにも関わらず、肝心の占いは他のどの占い師よりも不思議な説得力があったのが今でも記憶に焼き付いている。


(本人は普通のつもりなんだけどね)

横島の特異性を一つ一つ上げればきりがないだろうと思う明日菜だが、本人は至って平々凡々とした普通の生活のつもりなのだから考えると笑ってしまいそうになる。

明日菜自身は未だに気付いてないが、彼女は横島に惹かれている理由の一つにそんな非常識さがあることも確かだ。

もしかすると明日菜は平々凡々な生活を楽しむ横島の非常識な一面に、無意識ではあるが記憶の奥底にある一人の男と重ね合わせているのかもしれない。


「どうかしたか?」

「ううん、やっぱり横島さんなんだなと思っただけ」

笑いをこらえたつもりの明日菜だが、少し表情に出ていたらしく横島が不思議そうに声をかける。


「どうせ踊るならもっとマシな男の方がよかったって言いたいんだろ。 分かってるよ」

突然横島に声をかけられた明日菜は意味があるようでない答えをしてごまかすが、横島はそんな明日菜の言葉を勝手に解釈して拗ねるような表情に変わった。

横島としては半ば無理矢理誘った明日菜が楽しそうなことに安堵してはいたが、自分を見て面白そうに笑ったことから相手として不足なんだろうなと勝手に解釈したらしい。


「そんなこと言ってませんよ」

「そうか? イケメンに誘われたら俺なんか無視してそっちに行くだろ」

「被害妄想ですよ。 私も木乃香達もそんなことしませんって」

少し拗ねたような横島がどうせイケメンがいいんだろうと愚痴をこぼすと、明日菜は困ったように笑いながらそれを確実に否定していく。

正直横島とは何度も似たようなやり取りをしてるが、そのつど明確に否定しないと横島は本気でそうなのだと誤解を膨らませるのだ。

明日菜や少女達にとってはいい加減信じてほしいと感じ少々めんどくさいやり取りではあるが、横島の中で女性は見た目に弱いとの頑固なまでの偏見はなかなか変わらなかった。

実は身近な少女達が今だに横島は女性が苦手だと信じる原因の一つはそんな横島のコンプレックスにもある。




22/100ページ
スキ