平和な日常~冬~3

そんなあやかとのダンスを終えると、いよいよダンスパーティーの時間は残り僅かとなる。

名残惜しそうに最後のダンスを踊る人々を横島達はゆっくりと眺めていた。

華やかなパーティーに慣れてるあやかや千鶴のような人達は別にして、一般の生徒にとっては一生に一度あるかないかの晴れ舞台である。

学生という身分ながら社会や世界の一端を感じることが出来るこのパーティーに影響を受ける生徒も少なくない。

いつか自分もこんな舞台に似合う大人になりたいと希望を抱く者達の笑顔は、パーティーに慣れた大人達にとっても感慨深いものがあるだろう。


「あすなちゃんはいいの?」

そして横島達の周りではそろそろ帰り支度をしようとする者が居る中、タマモが一人だけ踊ってない明日菜を不思議そうに見つめていた。

みんな楽しそうに踊る姿を見ていたタマモは当然ながら明日菜も踊ると思っていたのだ。


「私はこういうのはちょっと……」

タマモの純粋な瞳に見つめられた明日菜は、自分には合わないからと言いそうになり止まってしまう。

きっとタマモには理解出来ないだろうと思うし、楽しそうにダンスを見ていた幼いタマモに合わないとは言えなかった。


「せっかくだし練習のつもりで踊ってみるか?」

そんな戸惑う明日菜に横島は初めて自分から女性を誘う。

尤も横島からするとさして意味がある訳ではなく、将来彼氏が出来た時の練習にでもなるだろうとしか考えてないが。


「ええやん」

「一度は経験しても損はありませんよ」

基本的に素直じゃないというか女性らしい自分に微妙にコンプレックスがある明日菜に、木乃香達はせっかくだから踊ってみたらいいと勧めていく。


「いつか高畑先生と踊る時に経験がないと大変だぞ」

加えて横島はいつか高畑とダンスを踊る時の為にと口走ると、明日菜は恥ずかしいような困ったような表情をしつつも手を取り歩き出す横島に逆らうことはなく歩き始める。

正直ダンスのような女性らしいことは得意ではないし、自分には似合わないと意地を張っていたが全く興味がない訳ではない。

少し強引な横島や木乃香達に困った表情をしつつも、誘われて嫌だと拒否をするほどではないようだった。


「私練習してませんよ」

「大丈夫だって。 リラックスして感じるままに身体を動かすだけでいいよ」

結局いつの間にか他のダンスをしてる人々に囲まれた明日菜は、木乃香達と違い踊るつもりが全くなかったので練習をしてないことに戸惑うが横島は流石に慣れて来たので気楽な様子だ。

周りの人々も横島同様に初めてでも慣れたようでみんな楽しそうである。

相変わらず戸惑う明日菜を、横島は楽しそうにリードしながらダンスを踊っていく。


「アスナも素直じゃないのよねー」

「うんうん」

「コンプレックスなのはわかるけど」

一方明日菜を送り出した少女達だが、美砂や円や桜子は最後まで素直じゃなかった明日菜を少し笑みを浮かべて見つめていた。

そもそも明日菜は今でも高畑が好きなんだと自分では思っているが、実は横島との関係もかなり怪しいのは顔見知りでは公然の秘密というか事実である。




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