平和な日常~冬~3

そのままダンスパーティーは華やかなまま過ぎていくが、横島がダンスの相手をした人数は二十人を越えたところで横島自身も数えるのをやめていた。

ダンスパーティー自体は三時間の予定で横島が休憩したのが二時間半を過ぎた頃なので、結構な人数とダンスを踊ったことになる。


「私の相手もお願いしていいかしら?」

軽く飲み物で喉を潤した横島はタマモを抱き抱えて休憩していたが、少し予想外の人物が横島をダンスに誘って来ていた。


「なんでいいんちょまで!?」

その人物とはあやかであり、近くに居た明日菜が思わず驚きの声をあげる。

横島とあやかの関係は悪くはないが、木乃香達や美砂達が横島と踊る順番を決めた際に加わらなかった経緯があった。

しかもあやかはその際に明日菜達に普通は男性から誘うものだと注意もしていたのだ。


「特に他意はありませんわ。 せっかくの機会ですので。 本来は男性から誘うのがマナーなのですが……」

横島とは違い休憩を挟みつつもいろんな男性とダンスを躍っていたあやかが、わざわざ自分から横島を誘いに来たことには周囲の少女達は驚く。

ただあやか自身はどうやら自分から男性を誘うのは初めてらしく、横島から誘ってくれなかったことに若干不満げな表情を見せていたが。


「忙しそうだったし、断られたら恥ずかしいからな」

多少周囲がざわついたが横島としては誘われて断る選択肢はなく、素直にあやかと踊り始める。

会場の企業関係者などの一部にはあやかが自分から横島を誘いに行った姿に少女達と同様に驚いていたが、まあ相手が横島だと知るとまたかという感じで見ている程度だった。


「本当に変わった人ですわ」

一方の横島は自身に踊る相手が次々と現れて忙しかったこともあるし、あやかにも何人もの男性に誘われていたことを見ていたので誘いに行かなかっただけなのだが。

ただ断られたら恥ずかしいと割と本音に近い理由を告げるとあやかは呆れた表情であった。

実際あやかは雪広家の娘として親交がある企業の関係者やその息子などに次々とダンスを誘われていたが、半分は義理のような意味合いでの誘いも多い。

断る断らないは別にして誘われる側の立場なだけに、男性側も気を使って誘う人は結構多い。

ぶっちゃけ誘われて嫌な感情を持たれるよりは、誘われないで嫌な感情を持たれる方が怖いのだから。

仮にあやかや雪広家がそれを本心から必要ないと考えても、立場的に下の者からすると誘わない訳には行かなかった。

ある意味そんな空気が微妙に読めない横島に、あやかは呆れていいのか褒めていいのか複雑な心境である。

あやかとしては横島に特別な感情はないが、やはりそれでも立場や家柄に遠慮しない人物としては数少ない年頃の男性であった。

せっかくなので少し一緒にダンスを踊ってみたいと考えて当然なのだろう。



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