平和な日常~冬~3

次の相手は桜子であったが、彼女は一見しただけで分かるほど楽しそうであった。

加えて緊張のカケラもない様子の桜子は、もしかすると少女達の中で一番肝が据わっているのかもしれない。


「たまにはこんなパーティーもいいね」

そんな桜子だが日頃パーティーと言えば横島の店で騒ぐことが多いだけに、どこか緊張感と気品があるパーティーが珍しく気に入ったようである。


「そうだな~ でも俺は緊張するから本当にたまにでいいかも」

「大丈夫だよ。 マスターだもん」

純粋無垢な笑顔を見せる桜子が横島は緊張するので少し羨ましげな様子であったが、桜子はそんな横島に何の前置きも理由もなく大丈夫だと言い切った。

その何気ない一言には理由はなくとも何処か自信というか確信めいたモノがあり、横島は桜子の才能の片鱗だと感じる。

ラッキー娘と呼ばれ運がいいことで結構有名な彼女だが、それは紛れもなく桜子の持つ才能の一つなのだから。

まあ普通に一般人として生きる限りは本格的に開花する可能性が限りなく低い才能ではあるが、実は横島が魔法やオカルトの才能を特に感じるのは明日菜と木乃香と千鶴と桜子である。

明日菜と木乃香は血筋が関係してるようだが、千鶴と桜子は本人の資質による部分が大きい。

そもそも横島が麻帆良に定住する直接的なきっかけを作ったのは桜子であるし、ビッケとクッキの件で比較的早い時期から連絡先を交換したりと木乃香達を除くと一番横島との関わりが深い。

その件に関しても少なからず桜子の幸運を呼び込む才能が影響してるのだろうと横島は思う。


「私ね、なんとなくだけどマスターが麻帆良に来てから何かが変わった気がするの。 だからこれからもずっとこうしてみんなで楽しく暮らせたらいいね」

相変わらず緊張の様子が見えない桜子のダンスは楽しげではあったが、良く見るとほとんど適当だった。

ただその楽しげな様子は見ていても気持ちがいい。

今この瞬間を目一杯楽しむ彼女は、これからもこんな日々が続いて欲しいと当たり前の願いを口にしていた。


「桜子ちゃんなら願えば叶うかも知れんぞ」

「えへへ、そうかな? じゃあお願いしてみるね」

それはごくごく普通の誰でも願うことだろうが、桜子ならばその願いが叶う可能性が人よりも高いことが事実だろう。

元々悪運はあっても幸運とはあまり縁のない横島は、純粋に桜子の幸運を招く才能が本当に羨ましかった。


「ついでにマスターのお店の繁盛も祈ってあげるね!」

「そいつは助かるよ」

微妙な年齢のせいか大人になりたいと背伸びしがちな木乃香達と対称的に、何故か桜子にはそんな様子はなく良くも悪くも年相応に大人と子供が入り混じっている。

そんな彼女のもたらす幸運が、自分や木乃香達やタマモの未来にもいい影響があって欲しいと横島は願っていた。

基本的に自分より相応しい人物には積極的に任せるというか丸投げする横島は、幸運を呼び込むことですら他人に丸投げしてしまう。

自分に運がないなら運がいい人に頼ればいいと本気で考えるのは、彼がやはり横島だからだろう。


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