平和な日常~冬~3

「知りたいと思うことはいけないことなのでしょうか?」

知らない方がいいことがあると語る横島の言葉は、子供扱いされたようで夕映は少し不満を感じる。

それにダメだと言われると余計に知りたくなるのが人情であり、知らない方がいいと言われると余計に気になってしまう。


「いけないことはないと思う。 ただもし他人が隠してることを暴くなら、それ相応の覚悟は必要かもな」

いつもならば適当にごまかす横島も二人だけということもあり真面目に答えていた。

それは日常では滅多に見せない何処か冷たさのある横島である。


「覚悟ですか」

「知ってるか? 日本は平和だって言われるけど、年間数千人から一万人は見つからない行方不明者がいる。 その何割が自ら望んで消えたんだろうな」

覚悟という言葉に夕映はわかっているといいたげな表情になるが、横島が続けて日本の行方不明者の数を告げると流石に表情が凍りつく。

ドラマや映画では秘密を知って殺される展開はよくあるが、夕映自身はそんなことが日常に起きるとも思えないし流石にそこまで考えての発言ではない。


「それに自分の行動で自分が被害を受けるならまだいいけど、それが夕映ちゃんの大切な人だったらどうする? 警察は事件にならなきゃ動かんぞ」

夕映の好奇心に関しては横島は嫌いではないし認めてはいるが、思考能力が高いせいか少し先走りたがる傾向がある。

今回のパーティーのようにそれが上手く噛み合えばいいが、悪く噛み合えば夕映は危険や重大な失敗に繋がることもなくはない。


「……本題からズレてますし、少し話を飛躍し過ぎではないですか?」

「そうだな。 麻帆良に居てそんなことになる可能性はまずないだろうよ。 ただ世の中は決して優しくはないから頭の隅にでも入れておいた方がいい。 夕映ちゃんの場合は人が踏み込めない裏側まで入っちゃいそうだからな」

珍しく真面目に話をする横島に夕映は複雑な感情が入り混じっていたが、よくよく考えると話の本題から微妙にズレてごまかされたのかと感じなくもない。

そもそも夕映はそんな世の中の裏側にいる巨悪のような話をしてるのではなく、麻帆良の不思議なことをなんとなく言葉に出しただけなのだから。


「私はそれほど軽率ですか?」

「いや、今のところは軽率な行動はないな。 ただ夕映ちゃんは少し頭の回転が早過ぎるから気をつけて欲しいんだよ」

横島の言葉の意味を考えていく夕映だが、正直夕映自身は熟慮して行動してるつもりだし、それほど軽率に見られてるのかと思うと少しショックだった。

ただ横島の心配そうな表情を見ると、その言葉に反発する気持ちは起きないまま静かに胸に刻むことになる。


そしてそんな夕映が自分の才能を理解して、横島の言葉の意味を理解するのはもう少し先になるだろう。

あまりに急激に才能を開花させ成長する自分を横島が心配していたなど、この時の夕映ではまだ気付くことが出来ないのだから。




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