平和な日常~冬~3

「少し休憩をしなくて大丈夫ですか?」

さて次の横島が踊る相手は夕映だったが、元々あまり感情が表に出ない彼女は一見するとさほど緊張した様子もなく普通だった。

木乃香からずっと一人だけ踊り続けている横島を心配する夕映だが、実のところ辺りを見渡すとずっと踊っているのはあまり多くない。

横島の他には豪徳寺なども律儀に求められた相手と踊っているが、後は社交ダンスのサークルの生徒くらいだ。


「ああ、大丈夫だよ」

そんな夕映の言葉に横島は大丈夫だと告げて踊り出すが、流石にそろそろ慣れて来たからか夕映をきちんとリードしている。

相変わらず女性とダンスを踊ることに抵抗感というか若干の気恥ずかしさは感じるが、そこはほぼ開き直っている状態であった。

というか木乃香達の周りには知り合いの女子中高生などが集まって来ていて、何故か順番待ちをしてる者もいる。

豪徳寺達や社交ダンス系サークルの生徒も似たような感じになっているが、素人が相手でもそこそこ上手く踊ってくれる人は結構人気らしい。

ダンスパーティーといえども半数以上が素人では全く知らない相手は誘いにくいし誘われにくいため、踊る相手が知り合いに偏りがちであったのだ。

特に若い男性と知り合う機会の少ない女子校の中高生に知り合いが多い横島は、気軽にダンスを楽しむためには手頃な相手だった。


「今日一日お疲れ様です。 いろいろあって改めて思うのですが、麻帆良は非常に不思議な街です」

表情にこそ表れないが多少の気恥ずかしさはあるらしい夕映だが、横島に今日一日の労いの言葉をかけるとそのまま頭の中に感じる引っかかるモノについて口にする。


「具体的な理由がある訳ではないのですが、よくよく考えてみると麻帆良学園は権力が集まり過ぎている気がします」

横島と出会い広がった世界は夕映に様々なモノを見せ、夕映自身もそこから学び成長していた。

そんな夕映は麻帆良という街に少し前から微かな疑問を感じていたらしい。


「権力か……」

「無論それを一概に悪いことだとは思いません。 ですが中央集権型国家である日本において、麻帆良は何故権力を維持出来るのでしょうか? そもそも権力があるのに今日来ていた政治家が、麻帆良学園出身のOBだけというのは些か不自然かと」華麗なダンスパーティーに似合わぬ話を淡々と語る夕映に、横島は少し困ったようにしながらもその話を静かに聞いていた。

僅かかもしれないが現実の社会を体験した夕映は、麻帆良の現状の裏に隠されたモノを感じつつあるようだと横島は思う。


「言い方は悪いですが、甘い蜜に群がる虫が少ないのには訳がある気がしてならないのです。 麻帆良学園には何か秘密が……」

「夕映ちゃん、世の中には知らない方が幸せなこともあると思わないか?」

現状では夕映は魔法には気付いてないが、麻帆良という街の人や権力の流れを見て漠然とだが何か秘密があるかもしれないと感じたようである。

ただそれはあくまでも全て夕映の推測であり、今のところは夕映本人も多少考え過ぎかなと思ってる程度だが。

しかし夕映には綺麗事の裏に隠された何かを知りたいとの好奇心もあった。


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