平和な日常~冬~3

のどかの次は円であったが、今までの相手より一番気楽な様子である。


「マスターも大変だね」

「なにがだ?」

美砂と桜子と共に横島の身近な少女の一人である円だが、実は横島に対する恋愛感情がほとんどない。

もちろん彼女にとっても横島は身近な男性であるし決して仲が悪い訳ではなく良好な関係ではあるが、円自身は横島に恋愛感情を抱く友人を見守る立場に近かった。

似たような感じなのは木乃香達と親しいハルナもそうだが、ハルナの場合は趣味が忙しく横島から一歩引いているので横島の身近で一番客観的な視点を持つのは円だろう。


「みんなマスターを信じてるんだよ」

彼女が横島とのダンスに加わった理由は単純にイベントを楽しみたいからであり他に意味はない。

横島と一緒に居て楽しいのは美砂達と同じであり、下手な相手を選ぶよりは楽しめるので参加しただけである。

そんな円だが友人達と横島の関係を純粋に一番心配してるのは彼女かもしれない。

まるで深みに嵌まるように横島に深入りしていく友人達には密かに危機感を抱いているようだ。

いずれ現状の関係に決着がついた時に初恋は実らないものだからと済めばいいが、場合によっては取り返しのつかない事態になるだけに心配なようである。


「過大評価だよな~ でもみんなを傷つけることはしないって」

一方の横島は日頃は美砂達と同じテンションの円が、何処か冷静に自分を見ていることを当然理解していた。

木乃香達や美砂達は基本的に自分を過大評価してると感じる横島にとって、そんな冷静さを内面に抱える円の存在は貴重と言える。


「相変わらずね」

少女達の期待を裏切らないように、そして傷付かないようにすると言い切る横島に円は軽くため息をつく。

やはり横島は自分を一番わかってないのだと思う。

そもそも横島が周りの少女達をどれだけ大切にしてるかは円も十分理解しており、問題なのは横島が自分の影響力を理解してないこととビックリするほど恋愛オンチなことだった。

相変わらず女性が苦手だという噂を身近な少女達ですら信じてる原因の一つはそんな横島の恋愛オンチっぷりにあるが、人の心の微妙な動きを理解する横島が何故恋愛感情だけ全く理解してないのか円は不思議でならない。


「大丈夫、わかってるって」

横島自身は誰よりも周りの少女達の幸せを願っており、それゆえにタチが悪いと円はシミジミと感じる。

わかってると告げる横島がこの件だけは絶対にわかってないと確信するだけに、彼女は少し困ったように笑うしか出来なかった。


(みんなマスターが好きなんだよ)

そしてこの一言を言うべきか言わざるべきか悩み、結局は言えないまま己の胸にしまうしか出来ない。

出来るならば友人達も横島にも幸せになって欲しい。

その為には今の横島に友人達の気持ちを自分が教えることはプラスになるとは円は思えなかったのだ。

関係が崩壊する危険を孕むが横島とは今しばらく信頼関係を築く時間が必要だというのが円の偽らざる本音のようである。



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