平和な日常~冬~3

美砂の次はのどかだったが、横島は何故恥ずかしがり屋ののどかまで順番に加わってるのかが素直に不思議だった。

現にのどかはダンスを踊る前から顔を赤らめている。

まあそれでも出会った当初に比べると格段と人に慣れているのだが。


「のどかちゃんも成長したな」

相変わらず恥ずかしそうではあるが、それでものどかは逃げずに横島に身を委ねるように踊り始める。

緊張の度合いは多分少女達の中で一番だろうが、逃げずにこの場に出て来たその行動力はのどかの成長の証だろう。


「私には木乃香や夕映のような才能はありませんから……、だから逃げたくないんです」

そんなのどかだが横島が自分の努力をきちんと見ていることを素直に嬉しく感じるが、同時に友人である木乃香や夕映と比べて自分の才能の無さを感じたが故に逃げたくないのだと語る。


「勉強は二人よりもできるだろ。 それに目に見える結果と才能は全くの別物だぞ。 そもそも人の才能なんて根本的にはたいした差はないからな。 誰でもきっかけがあれば変わるもんだよ」

ちょっと前まで同じような立場だった木乃香と夕映の活躍に、のどかは一人だけ置いていかれるような焦りにも似た感情があるのだと横島は感じた。

まあ急激に才能を伸ばし結果を出している二人なだけに周りに与える影響も大きいのだろうが、それでも腐らずに立ち向かうのどかの強さが眩しかった。

元々横島は何かあるとすぐに諦めて逃げ出してしまうタイプなだけに、そんな自分にはない強さを持つのどかが純粋に凄いと思う。


「そうでしょうか?」

「焦らずに自分の好きなこととか、やりたいことでも探した方がいいと思うけどな」

目の前で成長していく友人を間近で見る気持ちは横島も十分理解出来た。

かつて横島自身も似たような体験を散々したし、それで腐ってしまった結果が今の自分だとも言えるのだから。

尤ものどかの場合は逃げずに立ち向かうだけの強さがあるだけに、どちらかと言えば焦りすぎないようにとなだめる方が必要だったが。

ただのどかとしては横島の言葉が本心なのか励ましなのか微妙に判断に悩むようである。


「心配しなくてもそのうち分かるって。 そもそもうちの店で一番忙しいのはのどかちゃんだろうが。 そんだけやれることが多いのも才能だよ」

あまりに自分に自信がないのどかに横島は思わず笑ってしまいそうにだった。

突出した才能は見せてないが意外となんでも器用に熟すのどかは、横島の店の重要な鍵を握っていると言っても過言ではない。

今回のパーティーでのスイーツの件もそうだったが、必ずしも特化した才能がいい訳ではないのだ。

万能になるか器用貧乏になるかはこれからののどか次第だが、横島は彼女がその才能を自認する日は遠くないと思う。


「私、木乃香も夕映も明日菜さんもみんな横島さんに導かれたのかなって最近思うんです。 だから……、私のことも導いて下さい」

「ああ。 わかってる」

横島と触れ合うことで相変わらず顔を赤らめているのどかだが、その表情は真剣そのものである。

木乃香達を導いてるというのどかの考えは横島とすれば考え過ぎか過大評価にしか思えないが、ここでそれを否定してものどかは納得しないだろうし不安になるだけだろう。

あの恥ずかしがり屋ののどかがここまで言った勇気を横島は無駄には出来ないと思うと、のどかが一番求める答えで返すしかなかった。



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