平和な日常~冬~2
それは先程までの重苦しい空気を吹き飛ばすほどの笑いだった。
斉木は会場を包むような笑い理由が理解出来ないのか呆気に取られるが、すぐに我に返って動き出した学園関係者によって会場から連れ出されていく。
一方の横島は会場を包む笑い声に満更でもないのか一緒に笑っており、あやかはそんな横島をただただ見つめるしか出来なかった。
はっきり言えばショックだったのだ。
幼い頃から雪広の娘だと見られ優秀な姉と比べられ続けたあやかの苦労は、斉木などには決して理解出来ないだろう。
だがそれでも面と向かって七光りと言われたショックは計り知れない。
横島があとほんの僅かでも口出しするのが遅ければ、あやかは取り乱していたかもしれないのだ。
「まったく……、酒の飲み方も知らんのか」
斉木が連れ出され会場は元のパーティに戻っていくが、あやかの元には横島に加え夕映と千鶴や近くに居た関係者やVIPが集まっていた。
横島はいつもと変わらぬ軽い様子で笑っていて、先程まであった威圧感はやはり消えている。
「大丈夫かい?」
「君達を妬んでるだけだよ。 気にするな」
そしてあやかの変化に気付いたのは横島だけではない。
集まって来た年配者などはあやかに慰めの言葉をかける者もいるし斉木に怒りを見せる者もいる。
そもそもこの会場に居る関係者はあやかを幼い頃から知る者が多いし、当然その幸せだけでなく苦労や努力も見て来ていた。
彼等は七光りという言葉がどれだけあやかにとってショックだったかを理解している。
「それにしても面白い男を見つけたな」
その後あやかに一言だけかけた横島は、そのまま集まって来た関係者に囲まれて再び離れてしまう。
それはまったくの偶然だが、先程までは何処か壁があった横島と関係者の距離が明らかに縮まっている。
いろいろ噂があり那波家や雪広家が根回しした結果、先程までの横島は一種の腫れ物のような扱いであったがそれが薄れるだけのインパクトを関係者に与えていたのだ。
「ええ、ここ一番では本当に頼りになる人ですわ。 尤もここ一番になるまでが問題なんですけども」
関係者に囲まれいろいろと楽しげに話す横島を見てると、あやかは思わず笑って冗談を言えるほどに余裕が出ていた。
周りに居るあやかが幼い頃から知る関係者達も、そんなあやかにホッとした様子になる。
「一瞬ひやりとしたが、出て行かんで良かったわい」
「さすがに役者が違いましたか」
「あんなと馬鹿者と比べるのは横島君に失礼じゃよ」
一方大ホールを出た廊下では、一連のやり取りを清十郎と数人のVIPや関係者達が偶然見つけ見守っていた。
中にはすぐに止めに行こうとした者も居たが、問題を大きくしたくない清十郎が止めて見守っていたのだ。
結果として横島はその実力の一端を見せることにより、麻帆良の中枢を担う多くの関係者に認められ始めたことになる。
「それにしても雪広会長も人が悪い。 あのような隠し玉をご存知だったとは」
「あれは天性の才能ですな」
「人を引き付ける才能だけは、なかなか鍛えられるモノではありませんからな」
そのまま清十郎と関係者達は大ホールから離れていくが、偶然であれ必然であれあやかの窮地を救い自分のチャンスにした横島の評価は非常に高かった。
明らかにカリスマと言えるほどではないが、横島には何処か人を引き付ける才能があることを関係者達は見抜いている。
「みんないい子達じゃよ。 故にわしらはあの子達の将来を守ってやらねばならん」
結果として予想外のアクシデントで注目を集め評価を得た横島だが、それは横島自身にとっても麻帆良にとってもトータルではプラスだと清十郎は考えていた。
その過去に何があったのか気にならない訳ではないが、現状では横島がすんなりと麻帆良に溶け込んだだけで十分だった。
この先来るかもしれない波乱の時代には横島のような存在が必要だと清十郎は思うのだ。
無論それは横島が抱える力や遺産ではなく、横島個人としての存在が。
斉木は会場を包むような笑い理由が理解出来ないのか呆気に取られるが、すぐに我に返って動き出した学園関係者によって会場から連れ出されていく。
一方の横島は会場を包む笑い声に満更でもないのか一緒に笑っており、あやかはそんな横島をただただ見つめるしか出来なかった。
はっきり言えばショックだったのだ。
幼い頃から雪広の娘だと見られ優秀な姉と比べられ続けたあやかの苦労は、斉木などには決して理解出来ないだろう。
だがそれでも面と向かって七光りと言われたショックは計り知れない。
横島があとほんの僅かでも口出しするのが遅ければ、あやかは取り乱していたかもしれないのだ。
「まったく……、酒の飲み方も知らんのか」
斉木が連れ出され会場は元のパーティに戻っていくが、あやかの元には横島に加え夕映と千鶴や近くに居た関係者やVIPが集まっていた。
横島はいつもと変わらぬ軽い様子で笑っていて、先程まであった威圧感はやはり消えている。
「大丈夫かい?」
「君達を妬んでるだけだよ。 気にするな」
そしてあやかの変化に気付いたのは横島だけではない。
集まって来た年配者などはあやかに慰めの言葉をかける者もいるし斉木に怒りを見せる者もいる。
そもそもこの会場に居る関係者はあやかを幼い頃から知る者が多いし、当然その幸せだけでなく苦労や努力も見て来ていた。
彼等は七光りという言葉がどれだけあやかにとってショックだったかを理解している。
「それにしても面白い男を見つけたな」
その後あやかに一言だけかけた横島は、そのまま集まって来た関係者に囲まれて再び離れてしまう。
それはまったくの偶然だが、先程までは何処か壁があった横島と関係者の距離が明らかに縮まっている。
いろいろ噂があり那波家や雪広家が根回しした結果、先程までの横島は一種の腫れ物のような扱いであったがそれが薄れるだけのインパクトを関係者に与えていたのだ。
「ええ、ここ一番では本当に頼りになる人ですわ。 尤もここ一番になるまでが問題なんですけども」
関係者に囲まれいろいろと楽しげに話す横島を見てると、あやかは思わず笑って冗談を言えるほどに余裕が出ていた。
周りに居るあやかが幼い頃から知る関係者達も、そんなあやかにホッとした様子になる。
「一瞬ひやりとしたが、出て行かんで良かったわい」
「さすがに役者が違いましたか」
「あんなと馬鹿者と比べるのは横島君に失礼じゃよ」
一方大ホールを出た廊下では、一連のやり取りを清十郎と数人のVIPや関係者達が偶然見つけ見守っていた。
中にはすぐに止めに行こうとした者も居たが、問題を大きくしたくない清十郎が止めて見守っていたのだ。
結果として横島はその実力の一端を見せることにより、麻帆良の中枢を担う多くの関係者に認められ始めたことになる。
「それにしても雪広会長も人が悪い。 あのような隠し玉をご存知だったとは」
「あれは天性の才能ですな」
「人を引き付ける才能だけは、なかなか鍛えられるモノではありませんからな」
そのまま清十郎と関係者達は大ホールから離れていくが、偶然であれ必然であれあやかの窮地を救い自分のチャンスにした横島の評価は非常に高かった。
明らかにカリスマと言えるほどではないが、横島には何処か人を引き付ける才能があることを関係者達は見抜いている。
「みんないい子達じゃよ。 故にわしらはあの子達の将来を守ってやらねばならん」
結果として予想外のアクシデントで注目を集め評価を得た横島だが、それは横島自身にとっても麻帆良にとってもトータルではプラスだと清十郎は考えていた。
その過去に何があったのか気にならない訳ではないが、現状では横島がすんなりと麻帆良に溶け込んだだけで十分だった。
この先来るかもしれない波乱の時代には横島のような存在が必要だと清十郎は思うのだ。
無論それは横島が抱える力や遺産ではなく、横島個人としての存在が。