平和な日常~冬~2
「先日坂本先生が店に来てくれてね、君のことを話してくれたよ。 正直嬉しいような悔しいような複雑な気分だ。 私は本当にあの店を継ぎたかったからね」
横島と対面した石川は普通に和やかな雰囲気で話してはいるが、その表情には一言では表せないほど複雑な感情が見え隠れしていた。
そもそも石川は坂本夫妻が店を閉めると言い出した時に、本気で店を継ぎたいと一度は今の洋食レストランに辞めるとまで言っている。
最終的に店を継ぐことはなかったが、その店を偶然とはいえ形を変えて継いだ横島が引退したはずの坂本夫妻を再び表舞台に舞い戻らせた件は、石川としては考えさせられるものがあるのかもしれない。
「偶然と運の巡り会わせでしょうね。 私は麻帆良亭を知らなかったですし、継いだ訳ではなく元店舗をそのまま使ってるだけですから」
「そうかも知れないな。 だが私を含め多くの人が君に期待している。 これからも頑張ってくれ」
そのまま多少の会話をする二人だが現状はパーティーの最中ということもあり、洋食レストランは本来の洋食と麻帆良カレーを求める客で混雑している。
石川は横島に対する複雑な想いを胸に秘めたまま、若い横島にエールを送り仕事に戻っていく。
尤もそれは横島自身へのエールというよりはあの店を継いだ者へのエールなのかもしれないが。
「こうして関係者に会うと、改めてあの店の価値を感じますね」
その後昼食にする横島達であったが、せっかくなので洋食レストランで昼食を食べることにした。
横島は味見を兼ねて麻帆良カレーと洋食の定番であるハンバーグを頼むが、夕映は注文したメニューが来るまでの間にふと先程の石川の様子と言葉を思い返している。
そもそも夕映にとって麻帆良亭は数回食事に行ったことがある程度で、実際にはさほど良く知らないくらいの店であった。
横島があそこで喫茶店を開くと言った時も喫茶店にしては広すぎると感じた程度で、特別な価値を感じたことはない。
ただ時が経つにつれてあの店の価値を感じる機会が多々あり、先程の石川の表情や言葉はその典型的な一例である。
夕映は自分達が事実上受け継いだ形になる店の重みを改めて感じていた。
「そういえば店をやると決める前にあそこを借りたんでしたよね。 何故あそこだったんですか?」
かつて横島があの場所で喫茶店を始めると決めたのが、店を借りた後で木乃香達との雑談の最中だったと千鶴は聞いたことがある。
横島自身はあの店を借りた理由は安かったからだと何度か言っていたが、千鶴は他にも理由があったのではと以前から感じていた。
「直接的な理由はやっぱ値段だよ。 単純に安かったからな。 まあ他にも理由があるとするなら、大切に使ってた店なんだって感じたからかな。 一言で言えばなんとなく気に入っただけなんだが」
夕映の言葉に続きふとその疑問を横島にぶつけてみる千鶴だが、意外にも横島ははぐらかすことなく本音に限りなく近い答えを素直に語っている。
元々深く考えて借りた訳ではないが、あえて理由を付けるとするならばかつての美神事務所を彷彿とさせる古さが横島的に気に入ったとも言えた。
千鶴は横島のそんな感性が料理にも反映されてるのだろうかと感じるが、夕映は単純に何も考えてなかっただけだと改めて感じる。
元々お金には不自由してなかっただけに危機感というか真剣味が足りなかったのだとも思うが、横島は元々自分のことには本当に無頓着でいい加減なのだ。
正直夕映は横島にはある程度責任を持たせた方が、横島自身の為もいいと以前から考えている。
言い方は良くないが横島から責任を取ると、また一人で放浪するような生活に戻る気がしてならなかった。
横島と対面した石川は普通に和やかな雰囲気で話してはいるが、その表情には一言では表せないほど複雑な感情が見え隠れしていた。
そもそも石川は坂本夫妻が店を閉めると言い出した時に、本気で店を継ぎたいと一度は今の洋食レストランに辞めるとまで言っている。
最終的に店を継ぐことはなかったが、その店を偶然とはいえ形を変えて継いだ横島が引退したはずの坂本夫妻を再び表舞台に舞い戻らせた件は、石川としては考えさせられるものがあるのかもしれない。
「偶然と運の巡り会わせでしょうね。 私は麻帆良亭を知らなかったですし、継いだ訳ではなく元店舗をそのまま使ってるだけですから」
「そうかも知れないな。 だが私を含め多くの人が君に期待している。 これからも頑張ってくれ」
そのまま多少の会話をする二人だが現状はパーティーの最中ということもあり、洋食レストランは本来の洋食と麻帆良カレーを求める客で混雑している。
石川は横島に対する複雑な想いを胸に秘めたまま、若い横島にエールを送り仕事に戻っていく。
尤もそれは横島自身へのエールというよりはあの店を継いだ者へのエールなのかもしれないが。
「こうして関係者に会うと、改めてあの店の価値を感じますね」
その後昼食にする横島達であったが、せっかくなので洋食レストランで昼食を食べることにした。
横島は味見を兼ねて麻帆良カレーと洋食の定番であるハンバーグを頼むが、夕映は注文したメニューが来るまでの間にふと先程の石川の様子と言葉を思い返している。
そもそも夕映にとって麻帆良亭は数回食事に行ったことがある程度で、実際にはさほど良く知らないくらいの店であった。
横島があそこで喫茶店を開くと言った時も喫茶店にしては広すぎると感じた程度で、特別な価値を感じたことはない。
ただ時が経つにつれてあの店の価値を感じる機会が多々あり、先程の石川の表情や言葉はその典型的な一例である。
夕映は自分達が事実上受け継いだ形になる店の重みを改めて感じていた。
「そういえば店をやると決める前にあそこを借りたんでしたよね。 何故あそこだったんですか?」
かつて横島があの場所で喫茶店を始めると決めたのが、店を借りた後で木乃香達との雑談の最中だったと千鶴は聞いたことがある。
横島自身はあの店を借りた理由は安かったからだと何度か言っていたが、千鶴は他にも理由があったのではと以前から感じていた。
「直接的な理由はやっぱ値段だよ。 単純に安かったからな。 まあ他にも理由があるとするなら、大切に使ってた店なんだって感じたからかな。 一言で言えばなんとなく気に入っただけなんだが」
夕映の言葉に続きふとその疑問を横島にぶつけてみる千鶴だが、意外にも横島ははぐらかすことなく本音に限りなく近い答えを素直に語っている。
元々深く考えて借りた訳ではないが、あえて理由を付けるとするならばかつての美神事務所を彷彿とさせる古さが横島的に気に入ったとも言えた。
千鶴は横島のそんな感性が料理にも反映されてるのだろうかと感じるが、夕映は単純に何も考えてなかっただけだと改めて感じる。
元々お金には不自由してなかっただけに危機感というか真剣味が足りなかったのだとも思うが、横島は元々自分のことには本当に無頓着でいい加減なのだ。
正直夕映は横島にはある程度責任を持たせた方が、横島自身の為もいいと以前から考えている。
言い方は良くないが横島から責任を取ると、また一人で放浪するような生活に戻る気がしてならなかった。