平和な日常~冬~2

「横島さん!!」

そのまま昼食を食べに行くことになった横島達であるが、三人が向かった先は麻帆良カレーを提供してる場所だった。

横島としては昼食はバイキングでもと考えていたが、昼食前に麻帆良カレーの方にも顔を出して欲しいと頼まれて寄り道している。


「宮脇さんじゃないっすか!?」

今回麻帆良カレーが提供されていたのは、日頃は洋食レストランとして営業している場所だった。

最近は麻帆良カレーが密かに騒がれているが、麻帆良では元々洋食がご当地グルメとして有名な街である。

今回麻帆良カレーをパーティー参加者に振る舞うことになった際に、元々麻帆良のご当地グルメの代表格だった洋食レストランにお願いして一日限定で一緒に提供してもらうことになっていたのだ。

横島は夕映に言われるがまま厨房に挨拶に向かうが、そこに居たのは以前横島が料理指導をした宮脇伸二であった。


「今回お手伝いをお願いしたのですよ。 宮脇食堂は麻帆良カレーの提供試験店の中で一番優秀ですから」

自分の顔を見るなり笑顔で挨拶する伸二の姿に横島は素直に驚いてしまう。

伸二とは朝の仕入れの際などに時々顔を合わせることはあったが、お互い忙しく店の再開以来ゆっくり話したことはない。

まさか伸二が今日来てるとは思いもしなかったのだ。

尤も横島としては会う時の表情で上手く行ってるかどうか分かるので、宮脇食堂の様子には気をつけていたのだが。


「そんなに優秀なのか?」

「はい、収支は元より評価が一番高いです。 何より宮脇さんのやる気が評判いいですから」

そもそも横島は麻帆良カレーに関してもほとんど何も知らないようだったが、店の再開以来宮脇食堂版麻帆良カレーの評判がいいらしい。

他にも提供試験店は二店舗あったが何より店主である伸二のやる気と謙虚さが関係者に評判で、総合的な評価は一番いいようであった。


「こうして毎日働けるのもみなさんのおかげです!」

厨房には洋食レストランのスタッフに加え麻帆良カレーの側の人員も居るため、突如現れた横島と周りを気にもせずに頭を下げ感謝の言葉を口にする伸二は非常に注目を集めている。

元々他人から感謝された経験の少ない横島はそんな伸二の対応と周囲の視線にむず痒い気持ちになり困った様子になるが、夕映と千鶴はそんな横島を見て微笑ましげに笑みを浮かべていた。


「本当に頑張ってるみたいっすね。 よかったですよ」

目の前の表情の明るさは伸二の現状をよく表している。

麻帆良に来てからいろいろあったが、横島にとって一番難題だったのは伸二の件かも知れない。

そんな伸二が僅かな期間で多少なりとも成果を出して評価されてる姿は、横島にとって何よりの朗報だった。


「こちらはこのレストランの料理長の石川シェフです」

そして伸二との再会の挨拶を済ませると横島は洋食レストランの料理長に挨拶をすることになる。


「本当に若いな。 私が石川だ。 君とは奇妙な縁があって以前から気にかけていたんだが……」

「はじめまして、横島です。 石川シェフは坂本さんのお弟子さんでしたね。 一度お会いしたかったんですよ」

麻帆良ホテルの洋食レストランの料理長である石川シェフは、かつて麻帆良亭で修業をしたシェフの一人だ。

その才能は昔から評価が高く、フランスでの料理修業の後に麻帆良ホテルのレストランの料理長に就任している。

横島が彼を知ったのは割と最近だが、石川は横島が店を開いた当初から気にかけていたらしい。



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